春色の軌跡

□19 無気力が超加速
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「ヤエちゃん、次の授業は外で演習だよ。ヤエちゃん、」
「ん……?ああ、ありがとうヒナタちゃん」
上の空だった私におずおずと話しかけてくれたのは、日向ヒナタちゃんだった。
「あの……大丈夫?」
うちは事件のことは、隠す必要もないしそもそも隠しきれないことなので、すぐに里中に広まった。
うちは一族が滅んだこと。サスケ君だけが生き残ったこと。実行犯のイタチさんと、協力者の私の兄が里抜けをしたこと。
「うん、ありがとうね」
ま、私の兄のことはそこまで噂になっていないけれども。木乃花の名前は全然有名じゃないし。でもヒナタちゃんは私と仲が良いので、協力者の名前が耳に入った時に私の兄だと知り、覚えてくれていたのだろう。とても心配してくれている。

事件の後、里も学校内もうちは一族の話題で持ち切りだった。うちは一族は、知らぬ人がいないめちゃくちゃ有名な一族だからなぁ。木の葉の里の創立当初から続く家系。一族のほとんどは、忍の犯罪を取り締まる警備部隊に所属していた。その1番偉い隊長であるうちはフガクさんは、イタチさんとサスケくんの父親だ。息子のイタチさんも、とても有名な忍だった。

事件以降、サスケ君からは笑顔が消えた。もともとあまり友達が居なかったのに、ますます周囲と孤立してしまっている。まぁ私も人のこと言えないんだけどね。
サスケ君、サスケ……。

「ねぇヒナタちゃん」
「なぁに?」
「ヒナタって……呼んでもいい?」
「え……?」
急な問いかけに、ヒナタちゃんは目をパチクリさせた。そりゃそうだよね、知り合って、仲良くなってから、もう2年以上経つんだ。急に呼び方を変えるなんて変な話だろう。
「ごめんね、何でもない」
人のことをちゃん付けで呼ぶか、それとも呼び捨てで呼ぶかは、ただの好みだろう。仲の良さに比例するわけでもないんだし、気にする必要はない……。
「……私も、ヤエって呼んでも……いいかなぁ?」
なんとヒナタちゃんは、私もそう呼びたい、と、少し頬を赤くして答えてくれた……。

「うん!もちろんだよ!ありがとうヒナタちゃん!」
「く、苦しいようヤエちゃん……あっ」
勢い余って抱きついてしまったが、すぐにお互い呼び方が変わっていないことに気づいた。急に変えるのは難しいね、と、2人で照れ臭そうに笑い合った。

「あ、」
「……どうしたの?」
既視感があった。あの時も、こんなふうに笑いあったことがなかっただろうか。出会ったばかりの頃に、金色の髪を靡かせた彼女と。
ヒナタちゃんは、ヒナタは、とても良く似ていた。前世の友人と。
「ううん、なんでもないよ。行こっか!授業遅れちゃうね」
だけどもう、ヒナタも、私にとって大切な友達だった。


今まで、私はどこか冷めていた。二度目の人生だからなのか、ここが漫画の世界だからなのか。理由はわからないけど、とにかく長く生きすぎた。

だけど、このままではいけないのかもしれない。
兄と、サスケくんと、すれ違ってから。そう思うようになった。
私はこの世界での身の振り方を、改めて考えなければならない。……のかもしれない。
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