春色の軌跡

□17 惨殺事件と失踪
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今日は月が綺麗だなぁ。満月だ。
私は木の上に座り、ひっそりと空を見上げていた。
まだ日が暮れて間もないはずだが、あたりは嫌に静かだった。人も、街も、木も、風も、虫も。全て眠ってしまったのだろうか。自分の鼓動の音だけが聞こえる。

ふと、静まりきった夜の空気に、溶け込む2つの気配を感じた。

うちは一族の事件がいつ起こるのか、正確な日にちは分からなかった。だからここ最近、私は毎晩集落の側の林で張っていた。私に止めることができなかったとしても、何もしないのは嫌だ。これが漫画の筋書きで、本来あるべき事件だとしても、何もしないまま見過ごしたら私はきっと、一生後悔すると思った。たとえ何も変わらなくたって。

「こんなところで、何をしている」
「……シダレさんもいるのは、ちょっと驚き、かな」
全く予想していなかったわけじゃないけど。
イタチさんとは手を組んでいるのかな。もしかしたらシダレさんのやりたいことのうちに、うちは一族虐殺が入っているのかもしれない。

見つかってしまったので、おとなしく木から降りた。
「困ったな……外部に漏れていたのか」
「……いや、そんなはずはないだろ。コイツの単独行動に違いない」
木々が落とす影に紛れ込むようにして佇む2人。こうして改めて見つめると、えも言われぬ恐ろしさがこみ上げてきた。微塵の隙も感じさせない。足取りやふとした指先の動きまで、とても静かで落ち着いている。ーーこれが、暗部か。イタチさんに次いで、シダレさんも暗部入りを果たしている。

「その通りだよ。2人の行動が怪しかったから、ここで張っていたの。この先には、通させない」
「……まるで、この先で俺達が何をしようとしているのか知っている口ぶりだな。ーーイタチ、先に行け」
「しかし……」
「俺は外が異変に気づかないように、中が異変に気づいて逃げ出さないように、結界を張る。そして邪魔者が居れば……排除する。そういう手筈だったろ」
シダレさんが軽く印を結ぶと、うちは一族の集落が一瞬でドーム状の結界に覆われた。合図をすればいつでも囲めるように、予め仕掛けを作っていたのだろうか。……気付かなかった。

「だが相手は……いや、なんでもない。恩に着る」
「俺を心配するより、自分の心配をしろ。……迷うなよ」
「……させるかっ!」
去ろうとするイタチさん目掛けて、5本ほどクナイを投げーーたが、それは私の手元を離れてすぐに、違うクナイによって阻止された。
嘘……でしょ。イタチさんが動き出してすぐ、シダレさんよりも早く、私はクナイを投げたんだ。それなのに、私のクナイとシダレさんのクナイが、私の体のすぐ側でぶつかった。
それはつまり、クナイを取り出して投げる動作や、クナイが進む速さが、私とシダレさんでは次元が違うことを示している。
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