春色の軌跡

□14 前世を懐かしむ
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私は必死に勉強をした。学校の勉強は息抜き程度に軽く手を抜いていたけれど、家や図書館の本を齧りつくように勉強した。様々な分野を学ぼうとしてはいるけれど、一番重きを置いているのは、この世界独自の、この世界についての本だ。忍術書よりも、歴史や文化、思想、オカルト的な分野だ。前世でリフィルが異界の扉と呼ばれる遺跡の話を嗅ぎつけたみたいに、この世界にも何かあるかもしれない。前世のあの世界へと帰れる何かが。神隠しなどの怪奇現象でもないか。神話的なものでもいい。何か、何か……。

「この国の本だけでは、限界かもな……」
ここ、火の国には他国の情報が少ない。他国の歴史も詳しく知りたいんだ。
「……里抜けなんて、考えるなよ」
「シダレさん」
この人、気配消すのうますぎだろ……。いや、私にシダレさんへの警戒心がないからかな。家族だから。最近一緒に過ごす時間は少ないけれど、それでも一つ屋根の下にいるんだから。いちいち気を張ったりしないのだろう。

「まさか、そんなことしないですよ」
こんな子供が、他国に渡って生き延びれる保証はない。前世とは違って、身分証や通行証とか色々めんどくさそうだし。それに、この家を守っていかなければならない。とりあえず忍者にならなきゃ。忍者になったら、他国の情報も手に入るだろう。諜報機関に属してもいいし。それでも足りなかったら他国にーーあ、でも忍になってから里抜けすると、抜け忍となり、ビンゴブックに手配されることが多い。だから、もしもこの里を抜けるなら忍になる前だよなぁ。でも里抜けしなくたって、火の国と友好関係を築けている国にはある程度旅行はできる……よね。

この家のことや私のこと、シダレさんやヨシノは何かを知っていそうではあるが、何も教えてはくれない。

「ああ、そうだ。お前に渡したいものがある」
「私に?」
視線を本からシダレさんへと移すと、彼は腕を突き出してきた。その手には……、
「刀?」
「父さんのだ」
「えっ、形見じゃん」
「お前にやるよ」
「わっ!えっ、ちょっと」
シダレさんに放り投げ出されて、私が無事に受け止めたそれは、真っ黒な鞘の美しい日本刀だった。
「綺麗……」
少しだけ抜いてみると、丁寧に手入れされている刀身がキラリと光った。う〜ん……刀身は70cmくらいかな。今の私の身長では、鞘から抜くことができなさそう。柄には、何かの御札がぐるぐる巻きにされていた。なんだこれ、怖っ。けど、威力をあげる封印でも施されているのかなぁ。

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