春色の軌跡

□13 日常が一番大切
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忍者みたいに木の上をビュンビュン飛びまわるのが苦手だった。失敗して木の上から落ちた時は、周りの枝を掴めばよかった。でも今は、視界の開けた場所で魔術を使用していたため、手の届く範囲には木がない。離れた場所の木も魔術でめちゃくちゃになったけど……。なんとか受け身を取ろうと思ったら、こちらに近づいてくる気配を感じた。懐のクナイホルダーへと手を伸ばしたけど、その気配が見知ったものであることに気づき、やめた。彼の意図が読めたので、私は何もせずにそのまま身を任せる。
「大丈夫か?」
私の体は、すっぽりと彼の腕に収まっていた。
「ありがとうございます……イタチさん」
ゆっくりとした動作で気遣いながら、私を立たせてくれた。とても紳士。だけど……、
「いつから居たんですか?」
落ちて行く私に気づいて駈け出してくれたことには感謝しているけれど、視認できる範囲にずっと居たってことだよね。
「……ヤエが嫌なら、俺は何も見なかったことにするさ」
「…………」
まぁ、完全に羽と術は見られただろうな。
「しかし驚いたな……木乃花一族の秘術か?」
私の一族は、封印や結界の術を得意とする。だけどそれらは体内のチャクラを使用する術。ヨシノのチャクラを貰って以来、まだ練習したことがない。私は一族の術をまだ一つも扱えない。家族に習ったこともないし。
「それともーー神子だけが使える術なのか?」
「イタチさんは、この家のこと……私のことを、どこまで知っているんですか?」
”神子”なんて言葉を知っているのは、一族や信奉者だけだ。
「……シダレとは、よく情報を交換しているからな」
そう言ってイタチさんは、遠くの方を見つめた。先ほどまでの柔らかな表情とは一変して、どこか真剣な面持ちだった。
「イタチさんは……兄と仲が良いんですね」
「ヤエだって仲が良いだろう?」
「そんなこと、ないですよ。全然喋りません」
お姉ちゃんが亡くなるまでは、一緒に修行したり買い物に行ったりとかしてたけど。ここ数年は全くだ。
「……あいつも、中忍になったからな。なかなか家族と話す時間が取れないのだろう」
「え!?シダレさん、中忍になったんですか?」
初耳なんですけど。イタチさん、そのフォローは逆効果です。いや、教えていただいて嬉しいけど、私だけ知らなかったことが悲しい。昇進祝いに何かしたほうがいいかなぁ。迷惑かな。
「あいつはまったく……何をしているんだか」
呆れたように溜め息を吐くイタチさん。
「あの人は、私のことが嫌いなんですよ。……いえ、なんとも思っていないんですよ」
家族を省みない人だ。家族ってか、私をか。
「そんなことないだろう。あいつはヤエのことを大切にしているよ。ただ……素直じゃないだけだ」
「……違いますよ」
仮にシダレさんが素直じゃないツンデレだとしたら、ふとした時にデレ要素が出るはずだ。しかしそれはない。私が話しかけても、嬉しそうな素振りなど見せない。極力関わらないように、話を繋げようとしない。私に微塵も興味がないのだろう。あからさまな嫌悪感はないため、嫌われてはないと思いたいけど……実際のところどうだろう。
「あ、すみません。……イタチさん、修行しに来たのですか?」
こんな話を聞かされて困惑しているだろうな。この演習場に来たってことは、修行しに来たってことだろう。
「……ああ。久しぶりに、ヤエに稽古をつけてやろう。手裏剣術は上達したか?」
「…………善処します」

こうして、イタチさんの分かりやすくも厳しい特訓が始まった。

今日はイタチさんに術を見られてしまったけど、こうやって演習場で修行したり、イタチさんと会って会話したりすることは私にとって日常だった(最近は忙しそうであまり会えてなかったけど)。あとはヨシノと会話したり、お墓参りに行ったり。
こんな日常が、もっと続くと思っていた。

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