春色の軌跡

□13 日常が一番大切
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「ロックブレイク!フリーズランサー!フィアフルストーム!」
休日。山の中の演習場にて。最初は手裏剣や分身の練習をしていたんだけど、うまくいかなくてイライラしたから魔術の練習に変えた。ちなみに、分身の術は未だかつて成功したことがない。分身の術は、体内のチャクラを使ってもう1人の自分を創りあげることだと思うんだけど、体内のチャクラを放出して切り離す作業が私にはまだできないんだと思う。難しい。魔術ならこんなに簡単なのになぁ。と言っても、前世よりは威力は弱いしすぐに疲れてしまうけど。
「サンダーブレード!」
剣を形どった雷が降ってくる魔術。いろんな術を連発したおかげで地形がめちゃくちゃになってしまった。……まぁいっか。

「そういえば……」
前までは、何度試してもできなかったことがある。本当に何も反応がないので、今世では無理なんだと諦めていた。だけど今の私には、ヨシノのチャクラがつまった石がある。つまり体内にチャクラが、おそらく前世ではマナに相当するものがあると言うことで……。
「できる、かな……」
緊張する。汗ばんだ両手を、胸の前で握った。目を瞑り、イメージしたのはーー前世の、親友。あの世界で私が初めて出会った女の子。どれだけ大変な目にあっても、周りには微塵も気づかせずに、自分だけで抱えてしまう人だった。健気なその姿は誰よりも清く、そして……誰よりも心が強かった。決してぶれることなく、私の中に在り続ける存在。金の髪をふわりと揺らし、純白の衣服に身を包んだ少女は、にこりと微笑む。その背には、桃色のーー、
「出た……」
彼女の背には、桃色の羽があった。そして今、私の背にはーー……薄桃色の、羽。羽毛ではない、光の翼。
「出たー!やった!」
これは天使化といい、特殊なエクスフィア(私の左手首にくっついている石)が可能にしている一種の戦闘技術だ。聴覚や視覚などの五感を強化することができる(練習すれば羽を出さなくても強化できる)。
そして何より、空を飛ぶことができる。久しぶりの空はとても気持ちが良かった。

この光の羽は、自身の体内のマナを放出してできたもの。この世界ではチャクラがマナに相当するから、石の首飾りを持った今だからこそ、できたんだろうな。
「あ、そうだ……天使術……」
羽を出している状態では、普通の魔術とは少し違った天使術というものが扱えるようになる。やってみようかな。
「黎明へと導く破邪の煌きよ、我が声に耳を傾けたまえ。聖なる祈り、永久に紡がれん。光あれ!ーーグランドクロス!」
せっかくだからクソ長い詠唱文の天使術を放ってみた。詠唱が長いだけあって、威力はとてつもない。実戦で扱うには仲間の援護がとても大切となる。スピード重視の忍者同士の戦いにおいては、これから先お披露目する機会はないかもしれない。
そこら辺にあった大木たちが、一瞬で光に切り裂かれて消滅してしまった。演習場周辺が焼け野原になりそう……。
「懐かしいなー……」
彼女の詠唱はとても好きだったな。聞いているだけで心が洗われるような。もう一度、聞きたい。
「だけどもう、そんなことは…………あれっ、」
魔術の連発、そして久しぶりの天使化プラス天使術。私のこの体には負担がかかったようだ。視界がずれ、急速に体がーー落ちている!疲れから、天使化を維持できなくなったんだ!いや、石に蓄えているチャクラが無くなったのか!羽が消えてる。ひ、ひえぇぇぇぇぇ。

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