春色の軌跡

□09 縮まらない距離
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もう少し、大きくなったら。服の交換を楽しんだり、料理を教えてもらったり、私が前世の料理を教えたり、もっともっと、楽しみたかった。一緒に居たかった。
その機会は、永遠に失われてしまった。

「……ただいま」
「おかえりなさい。シダレお兄……ちゃん」
「無理に呼ばなくていい」
葬儀を済ました後、兄は、一族との会議に出席していた。私は来なくていいと言われたからお留守番。……たった今、兄と呼ばなくていい宣言されたけど。

私は二人に甘えていただけで、カスミお姉ちゃんもシダレさんも、私が家族だと思っていなかったことには、とっくに気づいていたみたいだ。

「私、お姉ちゃんの代わりに巫女さんになって祈祷とかした方がいいの?」
今まで姉を見ていたとはいえ、そんなこと出来なさそうなんだけど……。
「いや、それはいい。お前は自分の好きに生きればいいってことで話は纏まった」
「え、じゃあシダレさんが巫女を……?」
男性の場合巫女って言わないのかな?
「違う。阿佐間神社はここで終わりだ」
「は、えっ!一族に終止符打つ気なの!?」
「祭事とかが無くなるだけだ。信者は相変わらず参拝に来るだろうけど、管理者が居なくなる的な……。まぁ掃除とかは皆でするだろうけどな」
「それでいいの?昔から続いてたんじゃないの?」
「神子が生まれたからもういいんだよ。大人になって、お前が継ぎたいなら継げばいい」
「はぁ……?」
あ、神子って私か。

「とりあえず、好きに生きればいいさ」

そう言って、シダレさんは自室に入って行った。

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