春色の軌跡

□08 受け継がれる宝
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木が、パチパチ爆ぜる音がする。暖炉、じゃない。
「何、これ……」
赤い柱の神社が、煌々とさらに赤く燃えていた。
「姉さん!」
神社と言っても、たくさんある。私達が来たここは、燃え続けているここは、本殿の中の更に奥、少し離れている所。一族の中でも宗家の人間しか立ち入ることが出来ない、神様の住んでいる社だ。

「……スプラッシュ!」
水系の、中級魔術。立ち登る水の柱。建物を壊さないように、中に居る……カスミさんを傷付けないように、威力を弱く、密度を小さくして細かい水流がたくさん湧き出るようにした。
今の私では、この程度の魔術でもキツイ。

「う……」
無事に鎮火した建物から、シンメがカスミさんを背に乗せて出て来た。
「カスミさん……シンメ……」
体中に、人為的な、刃物の傷があった。でもここには、私達以外の気配は無い。
「姉さん!」
シダレさんが駆け寄り、支えた。
「シンメ、ありがとう……もうお帰り」
カスミさんはシンメの頭を数回撫でたと思ったら、シンメは――、
「き、消えた!」
この世界は召喚術があるの?

私は真っ赤に染まるカスミさんに近付き……、悟った。

もう、助からない。

「ヤエ、姉さんは……」
その問いに首を振りかけて……やめた。
手を翳し、治療を開始する。

死なせたくない。諦めたくない。たとえそれが、徒に寿命を延ばし、痛みを長引かせる結果になったとしても。

治癒術……この世界では医療忍術と言うらしいけど、それは緻密なチャクラコントロールが必要な技で、向き不向きがあるらしい。変化の術も出来ない私はチャクラコントロール力なんてないけど、まぁ、前世と今世では術の仕組みでも違うのだろう。

大きな穴の空いたお腹。抉れた肩。腕も脚も、創傷が酷い。

「ヤエ……もういいわよぅ。ありがとね」
「カスミさん……」
「ヤエ、これ……を」
真っ赤に染まった巫女装束の、袖が、腕が上がる。
「これは……」
「盗られないように、シンメのお腹の中、に、隠してたの」
「首飾り……?」
シンプルな銀の鎖に、白い鉱石。

「ヤエ、貴女はちょっと特殊な子よ。神の子だなんて言われたりする。でもね、母さんと父さんの娘よ。そして、私の、可愛い妹……」
「カスミ、さん」
「愛しているわ」
私の、妹。こんな奇妙な私を妹と呼び……愛してくれた……。
「カスミさ……ん。カスミお姉、ちゃん!」
「ヤエ……初めて、姉と呼んでくれ……ふふっ。ありがと」
ごめんなさい。ごめんなさい……!
「シダレ、昔に話したこと、覚えているかしらん?ヤエのこと……頼んだわよ」
「ああ。ああ……!」
「お姉ちゃん……」

嬉しそうに頬を綻ばせたお姉ちゃんは、瞼を閉じた後、もう二度と綺麗な碧色の瞳を覗かせることは無かった。

彼女を姉だと思わない、なんて思っていたのは、何とも愚かな話だった。
カスミさんは、かけがえの無い、私の、愛するお姉ちゃんだった。こんな別れ方、したくなかった。

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