春色の軌跡

□05 本殿と神様と私
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「シダレ、ヤエー。本殿のお掃除手伝ってくれるかしらん?」
「分かった」
「あれ、カスミさん今日はおやすみ?」
「そうなのよぅ。だからお掃除しちゃおうと思って」
カスミさんは毎日朝の十時から夕方の五時頃まで神社の方に居て、参拝者の相手をしている。といっても、今はもう信奉者は全員数えても十数人ぐらいしか居ないらしいけど。
で、今日みたいな休みの日が月に二回程ある。休日でも欠かさず神社には顔を出しているみたいなんだけど、私まで呼ばれたのは初めてだ。
普通の日は、参拝者が会いたがってるから来てーってお願いされるんだけど。

「わたし、神社のおそうじは初めて」
「そうねぇ、初めて呼ぶわね〜」
「ひとでが足りないの?」
桜並木を歩きながら、神社を目指す。山の麓から山頂までは正直めんどくさい。そんなに大きな山じゃないけど。この春で私は三歳になりました。誕生日には祭事?神事?がありました。度々分家の人と交流する機会があるので、だいぶ親戚事情に詳しくなった。
忍びの多くは九尾事件で亡くなったから、基本的にお年寄りが多いのだけれども、唯一年の近い分家が2人いる。2つ上の木乃花ウツギと、10つ上の木乃花バイカさんだ。2人は姉弟であり、ウツギは私をよくからかういじわるな子供って感じで、バイカさんはカスミさんと同じ年のお友達で、よくできたしっかり者のお姉さんって感じ。


「んー、いつもは手伝ってくれる方がいるんだけど、今日お掃除したいのはちょっと特殊な場所なのよねぇ」
「とくしゅ?」
「宗家の人間しか入っちゃだめなのよぅ」
宗家……宗家……ああ、私達のことか。
神社に来てくれているのは親戚……分家の方だけで、一般人は滅多に来ない。というか絶対来ない。多分知られてない。私にとっては大きな神社だけど、マイナー宗教らしい。昔、何を信仰しているのかと聞いたら「神様よ」しか返って来なかったから、あれカスミさんも知らないんじゃねーのと思ったことは今でも覚えてる。



本殿の中の更に奥、すこし離れた場所にひっそりと小さな建物が鎮座していた。小さなって言っても何部屋かありそうだけど。こんなとこ初めて見た。
固く絞った雑巾を渡されて、
「適当によろしくねん!」
と言われたのでそれはもう適当に掃除をしていたら、私は不思議な、と言うか奇妙な部屋に迷い込んでしまった。

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