春色の軌跡

□05 本殿と神様と私
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窓が無くて、古びた電球が一つあるだけの狭い部屋。丁寧に掃除されているのか、この部屋には目立った埃など無さそうなんだけど、古い木のにおいはどこよりも強かった。
この六畳間程の部屋には四方八方に本棚が置いてあり、それはもう古そうな巻物や書物達がギッシリと詰まっていた。紙や墨のにおいも仄かに漂う。

このことだけでもここが今までとは違う場所なんだって思ったけど、それよりも目を惹く物があった。

低めの台の上に乗った、壺。

目利きが出来ない私には、この骨董品の価値は分からない。高価なのか、どこにでもあるものなのか。
だけどこの真っ白な壺には、その白が見えなくなる程のお札が貼られていた。

やばい、ここ、絶対、ナニか居る。

壺に触ったら吸い込まれる、とか。この部屋からは出られない、とか。

早くこの部屋から出たいのに、どうしてもその奇妙な壺から目が離せなくて、私はそのままジリジリと扉の方へ後退した。

――お主が、神子か?

「ひっ……!」
マナが、この世界ではチャクラと言う名のそれが、この部屋を満たした。私のモノではない。まるで喉元に手を掛けられているかのような、抗いようのないチャクラのうねり。

死ぬ。人生詰んだ。呪い殺される。

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