春色の軌跡

□04 九尾事件の犠牲
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母の死後、カスミさんは正式に忍者を引退して巫女となった。九尾事件で木乃花の一族は多くの人が死んだから、参拝者が減って暇になるのかと思ったけどそんなことはないみたい。てか元々少なかった。
赤子である私は、忙しそうにしている巫女と常に一緒に居る。

「ヤエ様、先日はありがとうございました」
「神子様、こちらをお納めください」
九尾事件で何人か救った私は、依然に増して崇められるようになった。と言っても、十人も救えなかったみたいだけど。そして私は神子(みこ)って呼ばれるようになった。“みこ”って最初は姉のことかと思ったけど、どうやら巫女じゃなくて神子……神様の子供の神子の方らしい。コレット(※)かよ。
ちなみに差し出されたのは上等そうな子供服だった。

あれからと言うものの、姉はよく私に話し掛けるようになった。独り言に近いそれは、私の知りたいことばかりだった。
「一族の伝承にね〜、黒髪の赤子が誕生したらそれは神の子だ!って言う話があるのぅ」
そう、私の髪色、瞳の色は両方とも黒だった。家族親戚は皆白い髪で瞳は碧や蒼が多いのに、私だけが。
「でも、これだけは覚えておいてねん。貴女は私とシダレの妹で、お母さんとお父さんの娘だからね」
「あー、う」
この台詞は、嬉しくもあり、苦しくもあった。NARUTOの世界には詳しくないけど、私はやっぱり異質な存在である。ほんの数巻しか読んだことのない漫画だけれど、この世界が漫画の世界だと知っている記憶を持った挙句に転生、だなんて有り得ないことだ。
そして姉も、はっきりと私がどんな人間かは知らなくとも、伝承のせいもあって私を特殊な子だと感じている。なのにそれでも私を妹だと言ってくれる。その有り難みはあれど、私の中では姉はあくまでも“カスミさん”であり、一人の年上の女性だった。信頼出来る女性。でも、決して“姉”ではない。ごめんなさい。ありがとうございます。


※コレット
テイルズオブシンフォニアのヒロインで、神子。シンフォニアの物語は神子が十六歳の誕生日に神託をうけるところ(のちょっと前)から始まる。



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