春色の軌跡

□03 世界が判明した
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離乳食を美味しくいただいたり、寝返りやおすわりが出来るようになってきた、生後六ヶ月。涼しくなってきた十月の出来事だった。姉のカスミさんと乳母車でよくお散歩(カスミさんは買い物)をしていたのだけれど、ここ数日はそれが無く、何となく家族がピリピリとしていた。おもちゃで遊んだり口に物をくわえたりしない私にとって、外に出るのが唯一の楽しみだったのに……。
あ、街は高層ビルなど無い代わりに石造りの巨大な建造物があったりして、独自の文化が発達して楽しげな街だった。武器屋や帯刀してる人はたくさん居たけど。うん、家族だけが怪しげな仕事についてるんじゃなくて良かった。魔物は居なさそうだけど、前世も普通に武器が流通していたから別に違和感は無い。

今日は朝から両親もカスミさんも居なかった。シダレさんにお留守番するようにと私を預け、家から出て行った。五歳児に赤子を任せるくらい何か重要な仕事が出来たのだと思った。


夜になるとマナの高まりを感じた。高尚な魔術師が高度で複雑な術を扱っている時のような、高濃度のマナ。前世ではマナと言ったけど、この世界ではなんて言うんだろう。生命エネルギーの塊。
異変を感じとったのはシダレさんも同じだったようだ。急いで庭に出ようとしたので、私は思いっきり声をあげて、おんぶしてもらった。私も連れてけ!

我が家は山の麓にあり、山の中に神社はいくつかあるが、正殿のある本宮は山頂にある。もしかしたら、この山の全てが我が家の所有している土地なのかもしれないけれど、今はそんなことは問題ではない。
はるか遠く、散歩する時に度々お邪魔していた街のさらに向こうに、山より巨大な何かが居た。

「きうね……」
顔立ちは狐そのものだった。ただ、その体内に有るエネルギーが計り知れない。あまりにも膨大なそれに、冷や汗が出て来る。
「九尾……!失敗したのか!?」
シダレさんは口に人差し指と親指をくわえ、ピューと音を出した。そして数秒後、現れたのは茶色い馬。庭(森の中)に住んでいる家族の一員。
「シンメ、姉さんのとこまで連れて行ってくれ!」
シダレさんは馬のシンメに乗ろうとして、私の存在を思い出し、舌打ちした後に家の中に戻ろうとした。
「う!うー!」
待て!お前は私を置いてく気か!いや、行きたい訳じゃないけど。てか絶対危ないから行くな!家に居ろってママもパパもねーちゃんも言ってたでしょ!
少し考え、こいつから目を離すなって言われたしな……ってぶつぶつ言った後、シダレさんは私共々シンメの上に乗った。え、何で?

シンメはヒヒーンと高く鳴いた後、颯爽と駆け出した。え、あれ、ちょっと。妹を頼むのって、妹と一緒に危険を冒すってことなの?帰りてぇ!

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