春色の軌跡

□01 産声をあげた日
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ああ、これも夢なのかな。私が赤ちゃんだなんて、そんな筈は無い。さっきから喉が痛くて、張り裂けんばかりに声をあげている気がするけど、きっと気のせいだ。涙も出ているが、それも気のせい気のせい。

出産したばかりであろう白髪の女性(白髪といっても老けているわけではない。銀色と言った方が正しいかも?)に、赤ちゃんの体を洗うと断りを入れたナース服の女性が、私を持ち上げた。……持ち上げた。皆さん巨人ですか?

「……あれ?何かしら、これ」
体が温かい水に浸されてすぐ、看護婦さんが私の左腕を掴んだ。ちっさ!私の腕小さすぎ!赤ちゃんかよ!本当に……?
「赤い、石……?いえ、血の塊かしら……」
不審そうに眉根に皺を寄せる看護婦さん。左腕に、赤い石……エクスフィア(※)だ!
「取れないわ……」
「ふぎゃあああああ!!」
「あ、待って、暴れないで」
「ああえ!ああああいえ!」
やめて!触らないで!くそっ、喋れない!喋れたら怖いけど!とにかく、触るな。触られるのは嫌いなの。

「そのままでいいですよ」
頭上から降ってきたのは男性の声。見たいのに、頭が動かせない。あれか?首が据わってないからか?
「ですが……」
「抱っこしてもいいですか?」
「あ、はい勿論です」
このやり取り……もしかして、父親かな。

ガッシリとした腕に包まれて、視界には白い髪を携えた男性が映った。ああこりゃ私も白髪かな。

泣き疲れて、ただひたすらに眠くて、私はそのまま目を閉じた。訳の分からない状況で意識を手放すのは怖かったけど、抗いようのない眠気だった。

これってやっぱり、転生……とかいうやつなのかな。







※エクスフィア
前世に日本で生まれた夢主がテイルズオブシンフォニア(以下TOS)の世界にトリップした時から、左手首内側にくっついている赤い宝石。取り外すことが出来ない。身体能力と魔力を増幅させる宝石である。
TOSの世界では一般人にとって馴染みのない代物だが、主人公達はみんな身につけている。夢主は触られたり人に見られたりするのを嫌うが、触られたり見られたからといって何も支障はない。夢主の気分的に嫌なだけである。


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