交響曲第1楽章

□05 追放
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朝起きたら、不思議なことが起こっていた。信じられなくて、目を擦ってみる。瞬きを繰り返す。
「……何、これ」
それでも、現実は変わらない。そう。現実とは残酷にも突きつけられるもの。眠りから覚めた私が視界に捉えた物は、何度逃避しようとしても無くなるどころか、微塵も動こうとしない。
一見、カラフルで綺麗なそれ――服が、高い山を形成していた。
「………は?」
しかも几帳面に畳まれて積んである。それらの服は間違いなく、元も世界で使用していた、私の服だった。
おかしいなぁ……。洗濯して乾かした後は、無造作に私の部屋に重ねてあったはずなのに。あ……部屋に置いてあったリュックやキャリーケースもある。旅に使えるから助かるけど……。いやいや、そういう問題じゃない。なんで?なんでこんなところに……。驚きのあまり、寝起きの悪さも吹っ飛んだ。しばらく呆然としてたけど。
鳥が鳴いている。もう明るいので、そんなに早い時間ではないだろう。部屋にある時計をみれば、短針が7を指していた。時計の造りも、1日24時間だということも、私の居た世界と同じ。

服が現れたのは、私がこの世界に来たことと同じ原理かな……。誰かがこの世界独自の魔法で私を呼び寄せたのか(そんな粋狂な人居るのだろうか)、それとも時空の歪みのようなものが私の部屋にあるのか(引き出しの中ならぬタンスの中?)。それか……頭打って意識だけ飛んできたとか?でも肉体あるしな……。あと、全部夢だとか。夢オチなんて最悪だ。私の小さな頭ではそれ以外思いつかない。
「でもなぁ……」
いくら考えても、答えは分からないんだし……考えるのは止めよう。楽観的に行こう。この世界においては、驚いたり考えたりするのは時間の無駄だ。魔術や魔物だって存在する世界だから。そんなに深くは考えずに、これから先何と出会うのか楽しみにしておこう。……怖くもあるのだけれど。
服をキャリーケースに詰め込み、トリップ時にポケットに入っていた携帯電話を、電源を切って奥底にしまう。やはりと言うか、圏外だった。

朝食の手伝いをし、食べ終えたら、ダイクさんと一緒にお墓の花を替えた。
「あのバカ息子を……よろしく頼む」
「……え?」
なんだかその言い方……私達が結婚するみたいだ。
ロイドが心配、なんだろうな。あれ?ロイド……再生の旅に着いて行くって、ダイクさんに言ってたっけ?いや、言わなくても分かるんだろうな。コレットはロイドの幼馴染だ。
「嬢ちゃんも一緒に行くんだろ?」
「……はい」
本当にいいのかな、私が行っても……。
「あいつは無茶ばっかしやがるから……そん時は引っ叩いて止めてやってくれないか?」
「あはは、了解です」

後ろから土を踏みしめる音がした。夜を徹してペンダントを作っていたのかな。少しは寝られたのだろうか。
「親父……昨日は……」
話しにくそうにするロイド。目の下に薄らと隈ができている。
ダイクさんはロイドに向かって、小さな何かを投げた。放物線を描いたそれは、太陽の光に照らされて金色に煌めく。
「ほらよ、要の紋だ。どう使うかはおまえの自由だ。一応、俺は止めたぞ」
「親父!ありがとう!」
「ドワーフの誓い、第2番。困っている人を見かけたら必ず力を貸そう。それを実践しただけでぇ」
おお!なんかカッコいい!やっぱ良い人だなー。照れて頭を掻いている。本当に息子のことを大切に思っているんだね。

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