交響曲第1楽章

□04 夜空
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“ここに来てすぐに埋め込まれたんだけれど”
不意に、マーブルさんの言葉を思い出した。もしかして……牧場にいる人達皆にエクスフィアが……?
この考えをロイドに言うべきか迷い、結局言えなかった。確証が無いと言う理由もあるが、あの大勢の奴隷達に対して、出来ることは何もない……。そう思ったのかもしれない。確かに、何十何百と要の紋を用意するのは難しいし、それを牧場の人達全員に着けるのも困難だ。現実的ではない。言っても無駄だ。
ディザイアンという大きな組織に収容された人々を助けるなんて……できない……。
でも、そんなことを考え、諦める自分が無性に嫌だった。

「ふーん。それで大丈夫なんだ。じゃあ、腕輪でいいや。すぐ作ってくれよ」
「ちょっと待て。その要の紋がないエクスフィアってのは、どこの誰が身に着けてるんでぇ?」
「……え?あー、え〜っと……旅の人だよ。旅の傭兵」
クラトスさんのことを思い出してるのかな……。そして相変わらず嘘が下手だなぁ。
「そんな訳ねぇだろう。エクスフィアってのは、基本的にディザイアンどもしか使ってねぇんだ」
へぇ……エクスフィアはディザイアンの物?
「奴らから奪ったなら、要の紋も着いてるはずでぇ」
一体誰がエクスフィアを作ってるんだろう。ディザイアン?ドワーフ?
「ドワーフの誓い、第11番。嘘つきは泥棒の始まりでぇ。正直に話せ。どうして要の紋が必要なんだ?」
諺だ……。シルヴァラントにも日本と同じ諺が?……別に不思議ではないか。英語にだって日本にあるのと同じ意味の諺があるんだし……。
「……今日牧場で知り合った人が要の紋無しのエクスフィアを着けてたからさ」
「牧場に行ったのか!」
ダイクさんが声を張り上げる。そりゃあ、子供が危険な場所に行ったら怒るよね。
「わ、悪かったよ。ちょっと色々あってさ……」
「ディザイアンにエクスフィアを見られなかっただろうな?」
「ああ、大丈夫だよ……でもどうしてそんなにこいつのことを隠すんだ?」
ロイドはそう言って、視線を左手の甲に向けた。あ……ロイドもエクスフィアをしているって聞いていたけど、そこにあったんだ。
「今日村に来た傭兵なんか、堂々と装備してたぜ」
赤いグローブを着けている上から、手の甲にだけ白い布が巻いてある。確かクラトスさんも、左手の甲に装着してたっけなぁ。

「それに、サクラだってしてるよな」
ロイドの鳶色の瞳がこちらを向く。
……ん?漫画風にすると、目がきょとんとした。なんだか“きょとん”って可愛い響きだね。
「私……エクスフィアのような宝石の類は身に着けてないけど」
「え、左の手首にあるのはエクスフィアじゃないのか?」
不審に思った私だが、パーカーの左袖を捲ってみることにした。腕を出すのに一瞬だけ躊躇した自分が居た。そして手首には……人差し指の長さほどの幅がある、金色の腕輪。全くもって見覚えが無い。恐る恐る腕を回転して手首の内側を見ると……。
「なに、これ……」
そこには、赤くて大きな石が嵌め込まれていた。
「知らなかったのか?」
まるで、脈を打っているかのように禍々しい。石の内側で反射している光がそう魅せるのかもしれない。綺麗でもあり、不気味でもある。

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