交響曲第1楽章

□04 夜空
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イセリアの森の奥深くに、ロイドの家はあった。木造建築二階建て。小川のせせらぎと小鳥の囀りぐらいしか音のない、とても静かな環境。周りに他の民家は無い。ノイシュは既に小屋の中で蹲って寝ていた。
そして家の隣には……、
「ただいま、母さん」
小さな墓標があった。傍には鮮やかなお花が供えられている。
私は膝を折り、手を合わせてしばらく黙祷した。
「ありがとう」
ロイドはそう言ってくれた。
立ち上がろうとしたら膝がガクガクしたのを必死に隠した。戦闘続きと慣れない山道とで大変でした。

「おかえり」
玄関を開けると、金属を打ち付ける音が聞こえて来た。燃え盛る炎が釜戸から覗き、その前には汗を掻きながら腕を動かしている人物が。剣でも作っているのだろうか。きっと彼が、ドワーフ族のダイクさん。茶色の髪と髭。私の知識と同じで、ドワーフ族は背が低くて筋肉質だった。
内装は……男所帯の為か、色鮮やかで可愛い雑貨等は置かれてはいなかったけど、代わりにたくさんの種類の花が飾られている。ちなみにそれらは花瓶に活けられているのではない。ツタが巻いてあったり、緑と調和している……というか、自生していると言うか……。素敵な家だけど、虫が居そうで怖いとか考えてしまった。
「ただいま、親父」
「こ……こんにちは」
挨拶をすると、たった今私に気がついたのか、彼は作業している大きな手を止めてこちらを向いた。肩にかけているタオルで額の汗を拭う。
「客人か?」
「あの、サクラと言います」
「道で倒れてたんだ。記憶喪失だって。お金も行く宛ても無いらしいから、泊めてやりたいんだけど……」
「ほー……記憶喪失とはてぇへん(大変)だなぁ。なぁに、そういうことなら構わねぇさ。ゆっくりしてくれ」
「……ありがとうございます!」
それじゃあ今日はご馳走作らなきゃな。なんて言いながら、急なお願いを嫌な顔一つせずに受け入れてくれた。
記憶喪失だなんて、うさんくさい話(本当に嘘なのだが)も信じてくれた。気さくで良い人。それが第一印象だった。やはりロイドの温かさは彼から来ているのかな。

また少し剣を打ち付けた後、加工し終えたのか休ませているのか、黒光りする刀を壁に掛けた。
その頃合いを見計らって、ロイドは話を切り出す。
「あのさー、要の紋を作ってくれないか?」
「何でぇ、いきなり」
「今日知り合った人が、要の紋なしのエクスフィアを着けてたからさ。要の紋なしのエクスフィアは体に毒なんだろ?」
毒って具体的にどういうことなんだろう。そもそも、なんでエクスフィアを装着すると強くなれるの?というか私にはさ、宝石というか石というか……ガラス玉にしか見えないのだけど。
「それともまさか、一端要の紋無しのエクスフィアを装備したらもう手遅れなのか?」
「そんなこたぁねぇ。ただ要の紋が無いエクスフィアは、取り外すだけでも危険だ」
そうなんだ……じゃあ、マーブルさんのエクスフィアを取り外す時は、ダイクさんにお願いしないと。
なぜディザイアン達は要の紋をマーブルさんに着けなかったのだろう。危険なんでしょ?ダイクさんなどのドワーフに作ってもらえばよかったのに。お金がなかったのかなぁ。
いや……収容している人間に要の紋なんて大層な物着けようとは思わなかったのかな。それならなんで、エクスフィアを着けるの?身体能力を向上させる実験でもしているの?
「だから抑制鉱石でアクセサリーを作って、それにまじないを刻むことで要の紋にするしかねぇなぁ」
とりあえずよかった。毒?が蓄積される前に要の紋をつけないと。

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