交響曲第1楽章

□14 儀式
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 水の封印を解いた翌日。ハコネシア峠のコットンのおじさんにソダ島で回収したスピリチュア像を渡し、再生の書を見せてもらった。
「荒れ狂う炎。砂塵の奥の古の都にて街を見下ろし、闇を照らす。清き水の流れ。孤島の大地に揺られ、溢れ、巨大な柱となりて空に降り注ぐ。気高き風、古き都、世界の……。巨大な石の中心に祀られ邪を封じ聖となす。煌めく……、神の峰を見上げ世界の柱を讃え、……古き神々の塔の上から二つの偉大なる……。あとは壊れてしまってます。読めません……」
 天使言語とやらで書かれた再生の書をスラスラ読むコレット。いつの時代の本なんだろう。羊皮紙?パピルス紙?材料はよく分からないけど、紙もインクもすごく古めかしい。
「最初の2つは、すでに解放した火の封印と水の封印のことだよね」
「風の封印は……アスカード遺跡だろう。アスカードに行けば手がかりがある筈だ」
「アスカード遺跡とな!?」
 遺跡にテンションが上がるリフィル先生。
「神の峰を見上げって言うのは?」
「多分、マナの守護塔だと思う。あそこからは救いの塔の周りの山が見えるから、それが神の峰なんじゃないかな」

 とりあえず、次の行き先はアスカードになりました。アスカードは街の名前で、街の中にアスカード遺跡というものがあるらしい。



 ハコネシア峠を出発して1週間ほど経ち、ようやく到着しました!風の強い渓谷で栄えた街、アスカード。渓谷には橋がかかり、いたるところで風車が回っている。常に吹いている風が心地よい。街には洞窟がいくつかあり、クレイオ一世が風の精霊と契約した様子など、この地にゆかりのある歴史が描かれた壁画があるらしい。
 そして、街の中にある長い長い石段を登った先には、神託の地である可能性が高い、アスカード遺跡と呼ばれる石舞台が。

「おお、アスカード遺跡だ……」
 遺跡モードのリフィルが感心で唸った。
「素晴らしいね」
 丘の上に位置するこの場所は、街や遠くの山々を見下ろすことができ、なんとも見晴らしが良い。そして、ここには、重厚な存在感を放つ石舞台、アスカード遺跡が鎮座している。100m四方くらいの石舞台の四隅には、四体の像が建てられている。石舞台の真ん中には何かの紋様が描かれており、ところどころ欠けたり朽ちたりしている石舞台からは、とてつもなく長い年月を感じる。
「ロイド。この遺跡の歴史的背景を述べよ」
「え、えっ。えっと……」
「クレイオ三世が一週間続いた嵐を鎮める為、風の精霊に生贄を捧げる儀式を執り行った神殿」
「……です」
 答えられないロイドの代わりにジーニアスが答えた。この地は歴史的にとても重要な、有名な場所であるみたい。石舞台や壁画があることから、観光客がたくさん訪れている。パルマコスタほどの大都会ではないが、観光資源が豊富なため、アスカードはとても活気のある街だった。切り立った渓谷にかかる吊橋と、ぽつぽつと建っている背の高い風車がとても美しい。
あ〜、風が気持ちいいっ!

「ああ……。この五年間貴様は一体何を習ってきたのだ!」
「体育と図工と……」
「もういい!素晴らしいフォルムだ。この微妙な曲線は、風の精霊が空を飛ぶ動きを表すとされている」
 ふむふむ。
「さらにこの石はマナを多分に含んでいると言われ、夜になると――……」
 ふむふむ。
「もっとも現在では世界のマナ不足によって、この石に含まれていたマナも失われつつあると言う。石に含まれていたマナが大気中に気化する時に独特の香りを放つのだが、これが一般に言われるフィラメント効果だ」
 ふむ……。
「フィラメント効果は香りと共に火花が散るようにマナの輝きが溢れるので、この石舞台の神秘性が増したのはフィラメント効果によるものだと考えられるだろう。当時の人々にはこの科学的根拠が分からなかったのだな」
 ふむ……!ノートとペンがないと覚えられない!
「以上だ。何か質問は?」
「リフィル先生。難しかったのでもう一度説明してください」
 一気にまくし立てて話すリフィルと、必死に聞こうとするコレット。
「フ……。良いだろう」
 以下エンドレスのリフィルの説明が始まった。説明するリフィルとニコニコ聞くコレット。ここは地獄か?リフィル先生、テンション上がると話が一気に難しくなる!

 リフィルの講義から逃げるために……いや、調査のために、とりあえず大きな石舞台を一周しようとしたロイドと私。石舞台の陰にコソコソと隠れている2人の青年を見つけた。観光客かな?それとも地元の人かな?

「いいか、ライナー!これが俺の発明品『ブレイカー』だ。この爆弾を使えば、こんな忌ま忌ましい石舞台など簡単に壊せる」
 そう言った赤髪の青年の側には、箱の上にレバーのついている機械があった。箱と機械は数本の導線で繋がっている。
 ……爆弾!?テロ!?箱の中身は爆薬……?
「し、しかし、ハーレイ……。これは貴重なバラクラフ王廟の遺跡だ。この石舞台を破壊するなんて……」
「何を言うんだ。このままだとアイーシャは殺されるかもしれないんだぞ」
「何やってんだ、お前ら」
 なんとも不穏な企てをしている2人に、止める間もなくロイドが立ち入った。
「な……、何だお前は」
「違いますよ!僕達は別に遺跡を破壊するつもりでは……」
 機械を自慢していた青年は怪訝そうな顔をし、もう1人の眼鏡の青髪の青年は、とても慌てていた。活発そうな青年と、大人しそうな青年の2人組だ。
 ふと、豪快な足音が近づいてくると思ったら、リフィルがものすごい表情で近づいて来ていた。
「……今何と言った!?」
「先生。こいつら、この石舞台を破壊するんだってよ」
 私達がいる場所と、リフィルやコレット達が居た場所……石舞台の対極なんですが……。100m近く離れていたと思うのですが……地獄耳……。

「貴様!それでも人間か!」
 遺跡モードのリフィルが一喝し、2人の青年に猛烈なみぞおちキックをかました……。痛そ……。
「俺はハーフエルフだ」
 痛そうに咳き込んだ後、赤髪の青年は私達を睨みつけてそう答えた。おお!ディザイアン以外の、市民のハーフエルフは初めて見る!!!
「……それがどうした?お前達にはこの遺跡の重要性が、まるで分かっていない!」
 興奮したリフィルは、自身の腕を思い切りよく振った。

「「「……あ」」」」
 リフィルの腕に爆弾のレバーが当たり……レバーが……動いた。
 え!?これ起動した!?!?
「ちょっと、リフィル!!」
「この素晴らしい遺跡を破壊するだと?いいか、この遺跡はバラクラフ王廟の最盛期に……」
 えーー!解説始まっちゃったよ!!
「……先生」
「何だ。質問なら後で受け付ける」
「爆弾の、スイッチが、入った」
「質問なら後でと……。……何?」
 ロイドの指摘により、ようやく事の重大さに気づいたリフィル……。

「女!お前のせいでスイッチが入ってしまったのだ!」
「人のせいにするな!」
 ここでまた、リフィルキックが炸裂し、
「そんなことより解除スイッチはねぇのか」
「そんなものあるか!」
「えばるな!」
 ここでもまた、リフィルキックが炸裂した。
 計3回蹴られた赤髪の青年……かわいそうに……。
「仕方ねぇ。俺が解体する」
 爆破までの時間にはまだ余裕がありそうなので、ロイドが解体をかってでてくれました。

 ロイドが解体している間、私はというと、いつ爆発してもいいように、爆弾から逃げて……いや、離れて、いつでも水系魔術が発動できるように用意をしていました!
 ソダ島からアスガードに到着するまでの1週間で、だいぶ魔術の発動率がよくなったよ!!実践で使うレベルにはまだ少し遠いけれども……。

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