交響曲第1楽章

□13 盥船
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 先日――パルマコスタ人間牧場を爆破した翌朝。傷の具合を見ると言ったリフィルと服を捲った私は驚愕した。
「治ってる……?」
 傷口は膿んだり腫れたりすることなく、既にカサブタができていた。前に火の封印で火傷をした時も次の日には治っていたから、治癒術ってすごいな。……と、そう思っていたのだけれど、その考えは違うみたいだった。

「どうやらそのエクスフィアが関係しているようね」
 とのこと。マグニスによる腹部への一撃は、間違いなく致命傷だったらしい。傷は臓器にまで達していて、リフィルの治癒術では治しようがなかったとか。それでも治癒術を開始したリフィルは、私のエクスフィアがある位置(左手首)から淡い光が発したのを目にした。そして傷口が次第に癒えた。とのことだ。
 今までも私の治りが早いことを疑問に思っていたリフィルだけど、今回のことで原因はエクスフィアだと分かったみたい。

 ……なるほど。私はこの世界の体の基準とか治癒術に関する知識が無かったから、治りが早いのもみんなそんなもんだと思ってたよ。でも違ったんだね。他の皆も、エクスフィアを付けていない人に比べたら治癒術が効きやすくて治りが早いらしいけど、私はそれ以上らしい。エクスフィアには本当に助けられているなぁ……。

 このことは大発見で大切なことだったけど、それよりもはるかに重要なことが判明した。
「サクラって……魔術使えるようになったの?」
 と、そうジーニアスに聞かれた。その時は、え、何言ってんだこいつ……。みたいなジト目で返してしまった。そんな私に解説してくれたジーニアスによると、コレットがピンチの時にマグニスの顔面に水をかけたのは私らしい。ありえない!って思ったけど、ジーニアスはその時ライトニングの詠唱中で、クラトスも身に覚えがない。そしてリフィルが、あの時確かに私の周囲に水のマナが集まるのを感じたらしい。

 ……と、言う訳で、私は魔術が使えるらしいです。ちゃんちゃん。
 私の体はマナを取り込める体質らしいから、前々からジーニアスに素質があるとは言われていたけど。まさか本当に使えるとは……!ジーニアスに出会った当初の――この世界に来たての頃は、一切マナが無かったらしいけど、今は、少しあるみたい。

 でも、「私って魔術使えるの!?きゃっほーい!」って調子乗って魔術を使おうとして技名を唱えても、なんの反応も無かった。魔術の道は険しそうです。

「魔術を覚えたいなら、構築式の勉強しなきゃね!」
 ってジーニアスに言われたけど、それ以前にこの世界の文字を勉強しないとだから、魔術を使うことはまだまだ無理そう。文字が分からなきゃ式も理解出来ないよ。でも、その構築式?計算式?とやらを知らないのになんで私は水の魔術が使えたんだろう。それはジーニアス達も分からないみたい。魔術の詠唱時にも発動時にも、術者の足元に浮かび上がる魔法陣が私には出てなかったらしいし。普通はその陣に、頭の中で構築した式が書かれているらしい。謎。と言うか、魔術ってきちんとした理論が確立されていて、術者はみんな博学なんだなぁ……。


「そういえば、クラトスは人間なのになんで魔術が使えるの?」
 出会った当初は気になってたけど、聞くの忘れてた。
 メンバーの中で一番力の強いクラトスのたらいには、ノイシュが乗っている。船着き場ならぬたらい着き場には救いの小屋はあったけど、ノイシュを置いていけるような場所は無かったから一緒に行くよ!皆それぞれ二人組で、たらいに乗り込んでいる。
「……私の祖先に、エルフが居たのかも知れぬな」
「隔世遺伝ってやつ?」
「ああ。だから私は人間だが魔術を使えるのだろう」
「へぇ……」
 そういうこともあるのかー。人間な私が魔術を使えるのは恐らく異世界人だからで、この世界では異質なのでは……って思ってたけど、クラトスみたいに魔術を使える人も居るんだったら別に気にしなくてもいいのかな。

「あ、じゃあリアの炎は?」
 リアの武器は弓だけど、放たれた矢が炎を纏っている時がある。私と一緒にたらいに乗っているリアは、疲れた様子も見せずにその質問に答えた。私はかなり腕が疲れたのにすごい。漕ぎ続けるのって大変。
「この弓は魔科学で作られたものなのよ。周囲のマナを取り込んで炎が出せるの。私自身が魔術を使えるわけじゃないわ」
「へぇ、魔科――」
「やはり魔科学だったか!」
 私達の話を嗅ぎ付けたのは、遺跡モードになったリフィルだった。魔科学って随分昔に途絶えて今はディザイアンしか使っていない技術だから、代々受け継がれてきた歴史的価値のある品なのか、それともディザイアンから奪った物なのか……。
「今度という今度こそは貸してみ……きゃ!」
興奮した状態で私達の方へ近付こうとしたため、たらいが派手に揺れ、水飛沫がリフィルへと降り注いだ。悲鳴をあげるリフィル。可愛い……。ちなみにリフィルは、たらいを頑なに拒否していた為にコレットとの搭乗となっている。転覆したら羽のあるコレットが救出できるから。だから、残るたらいには、ロイドとジーニアスの二人が乗っている。

「ダメよ。これは……大切な物だから」
 弓をじっくり観察したいリフィルに、リアは渡すどころか触れさせることもしなかった。その時のリアの表情は過去を慈しむかのように優しげで、でもどこか哀しかった。大事な想い出が詰まった物なのかな?
 てか、リフィルのその台詞からすると、今まで何度も見せてくれと遺跡モードになり、その度に断られ続けていたんだね。どんまいリフィル。

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