交響曲第1楽章

□13 盥船
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 人間牧場を爆破させた後、体を休めるべくパルマコスタに向かった。人間牧場が壊滅し、収容されていた人々がパルマコスタに帰還したため、街はお祝い騒ぎであった。「ドア総督率いる義勇軍が、神子様御一行と供に、人間牧場を破壊した。」ドア総督は栄誉ある戦死を遂げたため、新たにニールさんが総督の地位を引き継ぐ。それが筋書きだ。真実を知るのは私達だけでいい。ちなみに、クララさんはこれまで通り、元の体に戻す方法が判明するまでひっそりと地下で過ごすこととなった。
 街全体が勝利の宴に酔いしれており、私たちは、収容されていた人々やその家族などから、次々とお礼を言われた。つまり、街全体で盛大に祝われたのである。おかげさまで、最も豪華な宿で一晩を過ごすことができた。

 牧場から解放された人の中で体にエクスフィアが着いている人には、ロイドの書いた紹介状を持たせ、ダイクさんの元に向かわせた。パルマコスタ人間牧場が壊滅したので、とりあえずはもう、パルマコスタの人々からディザイアンの脅威は去った……はず!やったね!マーブルさんやショコラちゃんのように、パルマコスタ出身だけど他の地方の牧場に移された人もいるから、パルマコスタの住人全員が帰ってきたわけではないけれども。
 カカオさんにはショコラちゃんは別の牧場に行ってしまったことを告げ、マーブルさんのことは、詳しいことは言わずに亡くなられたことだけを告げた。ショコラちゃんのことは気掛かりだけど、する手立ても無く。私達は再生の旅を続けることとなった。スピリチュア像を探しにソダ島へ!
 再生の書を見せてもらう為の条件として、コットンのおじさんにスピリチュア増を届けなきゃ。再生の書には封印の地が記されているから、旅に役立つはず。



「たらい……だよな?」
「たらいだ……」
「たらい、か……」
 上空にはふわふわとした白い雲がかかり、群青色の海からは潮の香りがする。白い砂浜が太陽の光を増幅させてとても眩しい。海辺特有の強い風と相まって、閉じてしまいそうになる瞳を必死に開ける。あー、こりゃ潮風で髪の毛がゴワゴワになるなぁ。そして目の前には、ぷかぷかと海に浮かぶ木製の…………たらい。まごうことなき"たらい"である。たくさんのたらいがプカプカと浮いている。目算だけど直径は1メートルと少し。それぞれが、桟橋にロープで繋がれ漂っている。まるで港にたくさんある船のように。
「えーっと……これに、乗るの?」
 そう、今回は、このたらいが、船なのである。…………嘘だろ……。ちなみに冒頭の台詞は上からロイド、ジーニアス、クラトスである。
「うわぁ、面白そう!」
 ……この台詞は、言わずもがなコレットだ。面白そう……?私は三人の呆然具合が面白いとは思うけど、たらい、は……面白くないデス。オールも木製だし……漕いでソダ島まで行けと?ギャグじゃないよねこれ……。遊覧船って聞いたからフェリーかと思ってたのに!通りで乗船料が安い訳だ。

「わ、私はここで待っています。さあ行ってらっしゃい」
「どうしたんだよ、先生」
「別に……何でもありません。よくって?私は乗りません」
 心なしかリフィルの声が震えてる、ような?いつもより高い声でどこか不自然だ。確かにリフィルの言う通り、こんないつ転覆するかも分からないたらいには乗りたくない。腕もすごく疲れそう。海辺やプールで遊ぶ分には問題ないけど、こんなたらいで島を渡るとかそんな馬鹿な話がどこにあるんだ……。いや、ここにあるんだけど……本当冗談でしょ……。
「面白そうですよ、乗りましょう」
「そうだよ、姉さん!」
 桟橋から陸へと後ずさるリフィルの腕をコレットとジーニアスが引っ張ると――、

「きゃっ」

 とてもとても可愛らしい声が聞こえた。か細くて震えているその声は、誰もがその声の持ち主を守りたい気持ちになるような。………………え?リフィル、だよね?リフィルが、か細い声で、悲鳴?目を伏せて肩を跳ね上がらせて……悲鳴?

「………………きゃ?……先生、まさか……水が怖い……とか……?」
 驚きのあまりに、誰もが……あのクラトスもが口をポカンと開けて静まり返った場で、最初に言葉を発したのはロイドだった。カナヅチで水が怖いのかな?でも水に入ったわけじゃないのに、近づいただけで悲鳴なんて……。
「きゃあ楽しみ、と言いかけたんです!」
……図星ですか。水が怖いのですか。
「意地っ張りだなぁ……」
「……フ」
 お、クラトスが珍しく笑ってる。いや、珍しくもないか。爆笑はしないけど優しそうに笑う時が結構ある。リアも。

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