交響曲第1楽章

□11 陰謀
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「ほら、全部吐いてしまいなさい」
優しく背中を撫でてくれるリフィル。便器に顔を突っ込んでゼイゼイしている自分が恥ずかしいけど、謝辞を述べる余裕も無かった。


シャワーを浴び、汚れた服はリフィルと一緒に洗濯して(もちろん洗濯機など無く手洗い)、新しく綺麗な服に着替えた。ジーニアスから暖かな紅茶が入れられたカップを受け取り、ホッと一息。
「ありがとう」
「落ち着いたかしら?」
「はい。すみませんでした」
あんなに動揺したのは人生初かもしれない。あのあと、広場はどうなったのだろう。
窓の外に目を遣ればもう外は薄暗くて、紫がかった雲が出ていた。そんなに時間経ってたんだ……。シャワーに時間かけすぎたかな?ぼーっとしてたからあまり覚えてないけど。

「サクラ!大丈夫か?」
「うぉっ」
扉が勢いよく開いて、ロイド達が入って来た。ビックリして紅茶零しそうになった。ノック?ロイドにはそんなもん期待できません。こっちは一応女部屋なんだけどねえ。まぁ女らしからぬ声を上げたのは私ですが。
「うん、皆ごめんね。先に休憩してて」
「いいっていいって!ジーニアスも大丈夫か?」
そう言いながらジーニアスの横に腰掛けるロイド。さっきからジーニアスは俯きがちだし口数は少ないし……。まだ顔青いんじゃないか?私だけ取り乱しちゃったけど、ジーニアスもリフィルも私以上に落ち込んでる。皆だって気分悪かっただろうに。いやほんと申し訳ない。

「街の外にだけど、供養して埋葬したから……。安心して。だいじょぶだよ」
「パルマコスタの人達が率先してやってくれたんだぜ!神子様達はお疲れでしょう、なんて言うから俺達はあまり手伝えなかったな」
「……そっか。良かった」
あのまま野晒しにされなくて……。
「あのような行動に出るのは過激な一部の連中だけであろう」
おお……クラトスにもフォロー入れられてる……!ありがとうございます!!でも……。

「なんであんなことが出来るんだろう」
「そんなの、ディザイアンだからに決まってるじゃない」
あっけらかんと、何事も無いように平然と言ってのけたリアに少し引っ掛かった。
「パルマコスタと、何か事件でも起こしたのか?」
違和感があったのはロイドも同じだったようだ。ディザイアンだから、なんて、答えは本当にそんな簡単なものなのだろうか。
「いいえ特には。でも、不可侵契約を結んでいるイセリア以外の街はどこもこんなものよ」
「シルヴァラントの人間と、ディザイアン達との溝は深いからな」
壁に背を預けて腕を組むクラトスも、リア同様に疑問は無いようだった。

「なんでここまで……」
私はやっぱり納得いかない。凶行した人々を理解することが出来ない。さっきも感じた通り、それは私が平和な環境で生まれ育ったからだろうけど。不可侵契約を結ぶイセリアに住んでいたロイドも、私と同じように納得していないみたいだし。
「ディザイアンは人間を攫って奴隷にし、また近隣の街に厳しい税収を掛けて気まぐれに処刑を行い、挙げ句には歴代の神子様を殺め続けている。それに……」
「――ハーフエルフだからよ」
私の疑問に答えようとするリアの言葉を引き継いだのは、リフィルだった。
「え?」
「ハーフエルフは虐げられる存在なの」
それは決まり事で、決して変えられない真実であるかのように。温度の感じられない声色だった。
「そんな……」
ディザイアンは、人に対してたくさんの非道を長年続けてきた。しかもハーフエルフ。だから街の人々の憎しみは強く、先程の事態も別に珍しいことではない。そう、言いたいのだろうか。
私も、イセリアの牧場で悪行を垣間見た。鞭を打たれてボロボロになりながら働く人々。村を焼かれ、マーブルさんを利用された。そう考えるとディザイアンは憎い。野放しにはしておけない。人々の為に、とめなくちゃいけないんだと思う。倒すべき敵。たとえ、殺してでも。と言うか、殺す以外にとめる手立てもないと思う。
死者をいたぶる行為に納得できないロイドやコレットでも、自分達がディザイアンを殺すことには納得しているんだろうな。私は、殺すこと自体でさえ割り切ることが出来ていない。
私達が何もしなかったら失っていただろう人の数よりも、私達が殺した人の数の方が多い。そのことが引っ掛かる。だからと言って、あのまま何もしない訳にはいかなかったけど……。

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