交響曲第1楽章

□09 刺客
2ページ/7ページ


「……ま、待て!」
山を登って降りきった時、扉が勢いよく倒れる音がした。ここに繋がってたんだね。
「……すげー、追いついて来た」
「ああ、良かった!」
嬉しそうに近づくコレットを、リアさんが諫める。
和服の女性は、体中に砂埃が付着したボロボロの状態だった。おまけに肩で息してるし……。中に強い魔物でも居たのか、迷っていたのか。
「う、動くな!」
……随分とコレットを警戒しているみたいだ。此処にはレバーの類は見当たらないけどね。
「さ、さっきは油断したが、今度はそうはいかない!」
また何かを構えた。恐らくあれが、彼女の武器。……御札?白い紙に、黒い模様が書かれている。毛筆だ。服装と言い、この女性は一体何者なんだろう。ちなみに慌てている感じが可愛らしいと思ってしまった。
「式神・紅風!」
御札が1枚消え、彼女の隣に見慣れない生物が現れた。式神?彼女が呼び出したのか。
「……覚悟!」
こちらに走り出す敵。私達もとっくにそれぞれの武器を構えていた。

私は、魔物よりも対人戦闘の方が心に迷いが出るのは分かっていたけど、それを抜きにしても、やはり人と戦う時の方が難しいと、今回の戦闘で再認識した。
知能の高い魔物や魔術を使う魔物は別だけど、今まで戦ってきた魔物は結構単純な攻撃が多かった。だけど人は、フェイントを入れたりして策を練るし、相手がバランスを崩す等の弱みをみせたら、見逃さずにそこを叩く。ワンパターンな魔物に比べて、人は様々な行動があるから。それを読むのは私にとって困難なことだ。戦い慣れている人なら、長年培ってきた経験や勘とかで分かるんだろうけど。あの、あれだ。漫画を読む時は冷静に登場人物の心情を判断出来るけど、実際に人と対面する時は緊張して上手く気持ちを汲み取れないのに似ている、気がする(漫画読みたいな)。
だから私も、戦闘中は冷静でいるように心掛けなきゃ。未だに避ける時に「うわぁあ」とか「ひっ」とか、間抜けな声が出るのはどうにかならないかな。

あと、この女性との戦闘で特別やりづらさを感じたこともある。御札で戦う人と対戦するのは初めてだから、間合いの取り方が分からない(普段の戦闘もまだ良く分かってないけど)。一体どんな技を繰り出すのか予想も出来なかった。御札を手に持って拳を突き出したから格闘系かと思いきや、御札を投擲する時もあるし、宙に浮かせて詠唱し、魔術のように発動させることもある。とりあえず御札に当たらないよう注意していたら、少し離れた御札から急に衝撃波が出て吹き飛ばされたりした。

「くっ、ここまでか……」
手強く感じた人は私以外にも居ただろうけど、2対7だ。私達は誰1人と大きな怪我を負うことなく、勝敗は決した。
「覚えていろ!次は必ずお前達を殺す」
彼女が地面に何かを投げた途端、白い煙が出て来て視界が遮られた――……煙玉!?
「待て!」
ロイドが呼び止めるも、煙が霧散した時には、既に姿は見えなかった。……良かった。煙に乗じてコレットが狙われなくて。ま、狙われてもリアさんやクラトスさんが返り討ちにしたと思うけど……。
「どうして俺達が狙われるんだ?」
「……いつの世にも、救いを拒否する者が居る」
ロイドの問いにクラトスさんはそう答えたけど、私には理解できない。だってコレットが世界を救わなきゃ、皆滅んでしまうんだよ。コレットの邪魔をするってことは、やっぱりディザイアンの一員なのかな。単独行動していたから、ディザイアンとは無関係な気がしたんだけど……。もし彼女がディザイアンじゃないのなら、なんでコレットの命を狙ったんだろう。世界の為に、再生を心待ちにしている人々の為に、コレットはあんなにも必死に頑張っているのに。

「逃がしてしまったわね……」
「ロイド、お友達になれる方法一緒に考えよ?」
溜息を吐いたリフィルさんの後に発する言葉としては、少々場違いなコレットの声が響いた。

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ