交響曲第1楽章

□09 刺客
1ページ/7ページ


旧トリエット跡にて封印を解いた私達は、他の封印の場所についての情報を得るため、世界最大の都“パルマコスタ”を目指している。陸路より海路の方が近いらしく、漁港の町“イズールド”を経由することに。

「待て!」
イズールドへと向かう途中、“オサ山道”と呼ばれる高峻な道を歩いていると、降って来た声。と共に、岩山から降りて来た人物。音も無く着地したことから、かなりの身のこなし。
「……何だ?」
「ロイドのお友達?」
私達を呼び止めたのは……何とも魅惑的なお姉さんだった。胸元が開いている藤色の……着物?を身に着けている。祭りに着る法被みたいなやつで、裾は股下まで。袖は短い。服と同じ色のアームカバーやブーツに、黒いタイツを履いている。太い朱鷺色の帯は後ろでリボン結びになっていて、可愛い。着物の中は白い下着だけど、なんかもう……胸元強調されてますねお姉さん!テレビの向こう以外で巨乳の人初めて見たかも。リフィルさんも脱いだら凄そうだけどね……!

「……この中に、マナの神子はいるか?」
帯と同色の紐で上に纏められている、菖蒲色の髪。目を細め、感情を殺したかのような低い声だったけど、多分未成年の女の子だと思う。あれ、この世界の成人って何歳だろう。
とげとげしい雰囲気から、コレットのさっきの質問は見当外れであることが分かる。
「あ、それ私です」
ブンブンと手を振って主張するコレット。……敵意ある人の前でアッサリ正体をばらしちゃってもいいの?ほら、クラトスさんは柄に手を当ててるし、リフィルさんも杖を握る手に力が入ってるし、ジーニアスだって眉に皺寄せてるし――
「……覚悟!」
そう言葉を発して、女性は何かを構えて走って来た。コレットは自分目掛けて一直線に近づく女性に慌てていて、武器を取り出す素振りがない。それどころか――コレットは倒れた。和服の女による攻撃ではない。自ら……こけた。それだけだったら私達側のピンチだけど、尻餅をついたコレットは、傍に合ったレバーを倒した。何のレバーだろう、と考える時間も無く、
「……あ」
声が重なる。敵の女性は、この場に居なかった。代わりに現れたのは、地面の黒い穴。レバーによって出現した穴に、彼女は落ちた。
「ああ〜、ど、どうしよう。やっちゃった……」
私達は抜いた武器を納めた。何とも呆気ない締めくくり方。脱力。……でも戦闘にならなくて良かった!
「気にすることは無いわ。ここで相手が落ちなければ、貴女が殺されていたのかもしれないのだから」
「だけど……」
穴を覗きこむ私達。先は暗くて、何も見えないし聞こえない。ナイフや爆弾、吹き矢等が飛んで来る気配も無い。
「まあ……、ちょっと可哀想ではあったけど」
「死んじゃったりしてないかなぁ……」
ロイドもコレットも優しいね!でも、私も心配になってしまった。敵だけど……。
「仮にあの人の体重が45kgとして、この穴が……10mだとすると、重力加速度を9,8として計算しても死ぬような衝撃じゃないよ」
「……よく分かんねぇけど生きてるんだな?」
「多分ね」
……衝撃の計算は分かんないけど、10mって、3階ぐらいの高さだよね?死なないとしても、重傷を負うのでは……。いや、この世界の身体の造りは元の世界より頑丈そうだから、大丈夫かな?彼女は一般人ではないだろうし。
「しかしまー、運の悪い奴だな。落とし穴の真上に居たなんてさ」
「落とし穴ではなくてよ。山道管理用の隠し通路ね」
「何者なのかな。ディザイアンじゃなさそうだけど……」
「そうね。他に仲間の居る可能性もあるし、次に会ったら吐かせましょうか」
小声で「姉さんの折檻は恐ろしいから……」って呟いたジーニアスに拳骨を繰り出した地獄耳なリフィルさんは、
「だから、殺さないようにしましょう。リア、それでいいかしら?」
と、リアさんに同意を求めた。
あの女性が穴に落ち始めた時、彼女の頭があった位置を弓矢が通過していた。コレットがレバーを倒したのが少しでも遅れていたなら、間違いなく頭部を貫いていた。あの時傍に居たロイドはコレットを護るように前に出ていたし、私やクラトスさんも、彼女がコレットに接触する前に女性に斬りかかることは出来た。だから別に、殺そうとしなくても良かったのに――……、いや、敵なんだから、命を狙われたんだから、殺そうとするのが正しい判断か。迷い無く矢を放ったリアさんに恐れを抱くなんて、そんなの見当違いだ。だって私も既に、人の命を奪ったから。コレットを狙う者を殺すことに、一切の躊躇いが無いリアさんを、私は恐れるどころか賞賛し、自身もそう為れるよう努めるべきなのだろう。

護る為には戦いは避けられない事実であると、きちんと自覚している。でも、護る為には敵の息の根をちゃんと止めなくてはならない。そのことを、まだ、私は納得が出来ていない。それなのに、これから先やっていけるだろうか。いつかは人を殺すことに、慣れるのだろうか。慣れてもいいの?いや、慣れなければならないよね?

渋々と頷いたリアさんの横で私は、ここ何日も続く、答えの出ない問いに悩まされ続けた。もしかしたら、それに答えなんてものはないのかもしれないけど。

.
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ