交響曲第1楽章

□08 新参
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それはそれは、穏やかな朝だった。昨日の事がまるで嘘かのような。
だけど、昨日の肉を斬る感触もたくさんの人が焦げる臭いも、全て現実で起きたことで。
赤に塗れた夢で私はただひたすらに責められたけど、それでもいつも通り空は青いし、太陽は眩しかった。

「おはようございます」
「あ、サクラ!おはよ〜」
「おはよう」
宿での朝食の時間は決められていたので、その時間に食堂へと向かったら、既に皆集まってい……ないや。
「後で行くって言ってたのに、遅いなぁ……。二度寝でもしてんのかな」
溜息交じりで呟いた後、呼んでくるから皆は先に食べてていいよ。と、昨日ロイドと同じベッドで寝たジーニアスが言う。小さくなっていくその後ろ姿を見ながら、私は椅子に座った。ナツメヤシか何かの木の皮を編んで造られた家具。
屈む時に、下半身に鈍い痛みが走った。歩けないほどの筋肉痛ではないけど、地味に痛い。軽度で済んでるのはエクスフィアのおかげだろうな。本来なら、丸1日も歩き続ける体力なんて私には無かったから。
「いただきます」
芋か豆かよく分からないけど、穀物を粉にして練った物が何かのスープに入ったやつと、果物(ナツメヤシかな?)と、チーズ。チーズは何のチーズだろ。砂漠だからラクダ?この世界にラクダっているのかな。乾燥気候の食べ物って初めて食べるなー。あ、このスープはピーナツの味がする。じっくり食事を堪能し、皆終わりかかっているところで、ようやくジーニアスが寝癖をつけたロイドを連れて来た。
全体的に香辛料が強かったけど、普通に美味しく感じたな。日本食に慣れきっているから、毎食これだったらキツイかもしんないけど……お米食べたい。そう言えば、昨日は少しお腹痛くなったけどとりあえずは外国(異世界)の水も平気みたい。これもエクスフィアのおかげかなぁ。

「あの……神子様、でございますか?」
美味しそうに食事を摂るロイドを微笑みながら見つめるコレットに、女性の声がかかった。
整った目鼻立ちに、スラリとした長身。流れるような美しい髪と透き通った瞳は、コレットと同じ色素をしている。
「!もしかして、リア?」
コレットが名前を呼ぶと、女性は嬉しそうに破顔した。
「そうです!ご無沙汰しております神子様!」
「わー!10年ぶりぐらいかなぁ?」
「神子様の5歳の生誕祭以来ですから、11年でございます」
話に花を咲かし始める2人。え?どういうこと?
「トリエットで合流する。と、話は聞いていたわ。貴女が“リア”ね?」
「はい。皆さん、初めまして。リア=ブルーネルと申します」
丁重にお辞儀をした、女の人。……ブルーネル?
「コレットの親戚なのか!?」
「え、そうなの!?」
「そだよ〜」
「僭越ながら、再生の旅の同行者として選ばれました」
背中に掲げてある弓が目に入った。ああ、なるほど。そういうことね。
「私は――」
「リフィル=セイジさん、ですよね?神子様の教師がご同行されると伺っております。それと、傭兵の方と……」
そこでリアさんは、悠然と端坐しているクラトスさんに視線を止めた。
「……クラトスだ」
「クラトスさんと……こちらの方々は?」
次に天色の瞳は、ロイドとジーニアスと、私を捉えた。そりゃあ傭兵には見えないだろうね。
「この2人は、コレットの幼馴染よ。この子が私の弟のジーニアス」
「よろしく、リアさん」
「俺は、ロイド!ロイド=アーヴィング!よろしくな」
「それで彼女が……」
「サクラ、です。初めまして」
「……神子様からの書信により、幼馴染の方々は存じていますが……」
「彼女は昨日出会った、記憶喪失、の女の子よ」
「記憶……喪失……?」
……あれ?何だか2人の視線が痛いような……。リフィルさん、わざと記憶喪失のところを強調しなかった……?
「えと!サクラはね、一緒に旅をして記憶を探そう!ってことになったの!とってもいい子だよ!」
「そう、ですか……」
ああ、コレットの気遣いに涙が出てきそうダヨ。ありがとう!
その後少し会話をし、私達は火の封印へと足を向けた。

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