交響曲第1楽章

□07 葛藤
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砂漠を越えて再びトリエットに着いた頃には、太陽が消えてすっかりと暗くなっていた。最初に訪れた時とは打って変わったように、辺りは静まり返っている。私は赤くなった指先に白い息を吹きかけ、すり合わせた。
天井には、申し訳程度に明かりが灯っている。暖房も何もなく、簡素なベッドが2つと机があるだけのシンプルな宿の一室。目の前では、ロイドとクラトスさんによるエクスフィア講座が繰り広げられていた。リフィルさんが熱心に話を聞いている。

「――……つまり、このエクスフィアは私たちの潜在能力を引き出す増幅器なのね。私も……使えるだろうか」
リフィルさんの周囲にハートが飛び交ったように見えた。あれ?最後の方なんだか口調が変わってますよ。ボータさんが置いて行った曲刀の柄にはエクスフィアが嵌め込まれていて、それに興味を持ったのがリフィルさん。
「難しいだろう。エクスフィアは要の紋がなければ人体に有害なだけだ」
「あのぉ……要の紋って作れないんですか?」
小首を傾げたコレットの髪がサラサラと流れる。
「先程話した通り、要の紋というのは抑制鉱石を加工して、表面にエクスフィアを制御するための紋章を刻んだ装備品のことだ。ドワーフの間に伝わる秘術といわれている」
クラトスさんは何でも知ってるなぁ。
「ああ。そのまじない……っていうか紋章は、俺でも彫れるんだけど、抑制鉱石の加工は親父にしかできないんだよ」
「ねぇ?抑制鉱石というのはこの中にはないのかしら」
そう言ってリフィルさんは大きな袋から何らかの荷物を取り出す。
「姉さん!これ、家から持ってきたの!?」
「当たり前です。貴重な研究品ですからね」
研究品?教師であり、研究者でもあるのだろうか?それとも……彼女の趣味かな。流行りの歴女?この世界でも流行っているのかは分かんないけど。
「これがバラクラフ王廟の聖なる壺。これがマーテル教会聖堂の宝剣。これがアスカード遺跡からでた神官の冠。これはハイマの鉱山からでた黄鉱石……」
……なんで教会の宝剣をリフィルさんが持ってるの?もしかして神託の日に盗――いやいや教師がそんなことするはず無いですよね!疑ってすみません!
「何だよ。ガラクタばっかりじゃん!」
そのロイドの言葉で、部屋の温度が一気に下がった。気の所為なんかではない。
「何ですって……?」
氷の眼差しがロイドを射抜いたかと思ったら、今度は美しい銀髪が逆立つかのような怒りを露わにする。恐ろしさのあまり、少々身震いをしてしまう程だ。……これからは何があっても、リフィルさんに逆らわないようにしよう。

「……ん?これは……」
袋から散らばったガラク――……ごほん。貴重な物の中から、クラトスさんが小さめの何かを拾い上げた。
「ああ、それは人間牧場の前で拾ったのよ。天使言語が彫られていたから持ち帰ったの」
話題が逸れた為、ロイドから安堵のため息が。クラトスさんナイス!……あれ?リフィル先生……人間牧場に近づいたら駄目じゃん。
「先生!これ、要の紋だよ!」
え?嘘。なんという幸運。
「しかし途中で紋章がすり切れている。このままでは使えないぞ」
要の紋がクラトスさんの手からロイドへと渡る。少し観察した後、
「……これぐらいなら俺が直せるよ。大丈夫、明日には先生もエクスフィアを装備できるよ」
「本当!?ありがとう、ロイド!じゃあ悪いけど、お願いするわね」
ということは、これからリフィルさん戦うのかな……。彼女は今までは戦いに参加していなかった。まぁ、神子の教師としての同行だしね。

「それで、部屋割のことだけれど――……」
リフィルさんがこちらを向く。先ほどまであった柔らかな光がないその瞳に、私は少したじろいだ。

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