交響曲第1楽章

□05 追放
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「もう止せ、二人とも。今回の事は確かに俺が悪かったんだ。…………出て行きます」
ロイドは、しっかりと村長の目を見て口にした。彼がそう言うのであれば、私はもう、何も言えない。
「村長、こんな子供にそこまで厳しくしなくても……」
「何を言っているんだ。こいつのせいでたくさんの人間が死んだんだぞ!」
聞こえてくる泣き続ける子供の声は、その子の母親へのものか。幼き少女の横で静かに眠っている。
傷ついた者を治療する人達。消火活動をする人達。涙を流して動くこともできない人達。私達を責めている人達。

「ロイドは悪くない!牧場に誘ったのは僕だ。だから僕が悪いんだ!」
「それでもディザイアンが狙っているのはロイドだ。それにロイドは元々村の人間じゃない。ドワーフに育てられた、余所者だ」
余所者……。家がイセリアに無いというだけで、ロイドを余所者扱いするのか。今回の事は私達に非があったとして、このことは無関係だよ……。十数年もここで過ごして来たロイドは、一体どんな気持ちでこの言葉を受け取ったのか。

「だったら、僕も出ていく。僕も同罪だ!」
「ジーニアス、お前……」
「……ならば、仕方が無い。村長権限でここに宣言する」
村人たちの視線が、痛い。
「只今を持って、ロイドとジーニアスを追放処分とする」

その言葉と共に、非難と罵声が飛び交う。全て私たちに向けられたものだ。
出ていけ、出ていけ、と。
そんな中ロイドは、ある男女の前へと歩み出た。
「………………」
罵倒していた人達は散って行き、各々村の修復や人の治療に取り掛かる。
「迷惑かけて、済まなかった」
ロイドが謝る先には、コレットの祖母――ファイドラさんが。
「その気持ちがあるのなら、どうか神子様を追いかけて守ってやっておくれ。そうすることで世界が救われれば、きっと皆の気持ちも変わるじゃろう」
「コレットも……きっとそれを望むはずだ」
フランクさん。
「……ああ。償いはする。俺の所為で亡くなった人の為にも、必ずコレットを守るよ」
強く、固い、決意だった。
「……僕は、ロイドに着いてくよ。ロイドが追放されたのは、僕の所為だもん。だから……ずっと着いて行くから」
ジーニアスは……どこか、人間に一線引いている気がする。だけど、きっとロイドは気の許せる人なのだろう。
「私にも責任がある。一緒に行くよ」
コレットにも、もう一度会いたい。
「なぁ、ジーニアス。そのエクスフィアはお前が装備しろよ。マーブルさんの……形見だ」
「……うん」
ジーニアスは俯き、マーブルさんの残した石を見た。
「要の紋の使い方は、ゆっくり説明するよ。どうせ……長い旅になるしな」
「そうだね……」
これからは一体どんなことが待ち受けているのだろう。

「神子様達は、南に広がるトリエット砂漠に向かったはずじゃ。まずは南に行くが良いじゃろう」
「君達に、マーテル様のご加護がありますように」

次第に弱くなっていた雨がやんだ。
女神マーテル、か……。コレットが再生の旅を成し遂げたら、この世界は平和になれるんだよ……ね?
私も、きちんとお手伝いできるかな。

「クーン……」
ノイシュが静かにロイドに寄り添う。
「行こうぜ、ノイシュ……」
そうして私達は旅立った。それは、追放という名の旅立ちだった。


05 追放 end


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