交響曲第1楽章

□02 神託
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「素晴らしい!!!」
心臓が飛び出るかと思った。ワープした瞬間、女性の声。もう驚くことはないと思ったばかりなのに、無理だったみたい。
「……先生?」
「姉さん!」
と、横に居る2人が同時に発した。……え?ジーニアスの言葉は分かるとして……。
「先生って?」
「あら、貴女は?」
そう言って、知的美人という言葉がぴったりであろうその人は、白藍(しらあい)色の瞳で私を探る。何時間か前のジーニアスみたい。確かに、彼に似ている。
白い服、白いブーツに黒いズボン。ゆったりとした服に、同じくゆったりとした橙色の上着。ジーニアスと同じ色の髪で、これまたジーニアスと同じで横髪が長い。
初対面でこんなこと思うのは失礼だろうが、ちょっと冷たそうな人……というのが正直な感想だった。不躾に視られているからと、綺麗すぎる外見がさらにそう思わせているのかもしれない。こんな美人さん初めて見たヨ!!

「サクラと言います。倒れていたところを皆さんに助けてもらい、勝手ながら神託にお供させていただきました」
そう言ってお辞儀をした。あ、この世界では日本とはお辞儀の仕方が違うかも……?
「そうなの……。私はリフィル・セイジ。ジーニアスの姉で、イセリアで教師をしています」
少し微笑んだ後にリフィルさんはロイドとジーニアスを見た。なるほど、だから“先生”か。
「2人共!どうして此処に!教室で自習している筈でしょう!」
ひやぁ……怒ってる。自習を抜け出して来たのかい?自習なら仕方ない!学校サボって屋上……とか、漫画で有りがちなことしてみたかったなぁ。鍵掛かってるし立ち入り禁止だったけど。

「あ、やべぇ……」
「姉さん!ご、ごめんなさい!」
リフィルさんはジーニアスに歩み寄る……そして!

規則的なリズム。何気にこういう音は好きだ。
ジーニアスは……所謂お尻ペンペンをされている。なんとも古典的な……。さすがに私が見ているからか、ズボンを下ろしたりはしていない。涙目になってるジーニアス。非情にもしばらく続いた。
「……次はロイドです。さあ、覚悟はよろしい?」
「うわ、やっ、やめろよっ!」
ジリジリと後退するロイドに、魔の手が迫ってくる。その年でお尻ペンペンはきついよな……と、思いきや。
リフィルさん、あなたは蹴りの達人ですか?普通の人ではないですね。あ、ジーニアスと同じエルフか。
「いってぇ!」
ロイドは吹っ飛ばされ、壁に激突した。
そしてリフィルさんは何事も無かったかのようにこちらへ……えええ!
「2人が迷惑を掛けなかったかしら?」
「だ、だだ大丈夫です!」
「それなら良いのだけれど……」
よ、よかったぁあ!私には暴力的制裁なし!?そうだよね!初対面だもんね!疑ってすみませんでした!

「さあ2人共。反省したら家にお帰りなさい。今日の授業は無くなりました」
「姉さんは?」
ジーニアスは未だに床に手をついている。そんなに痛かったか……。
「ファイドラ様の許可を得たのでもう少しこの聖堂を調べます」
「ファイドラ様?」
「聖堂前に居たコレットのお婆さんだよ」
「あぁ……。ありがとうジーニアス」
「一般人が此処に入れる機会は滅多に無いですからね」
そう言ってリフィルさんは去って行った。

「じゃ、イセリアに帰るか。サクラはどうする?」
「ん〜……とりあえず、着いてく!」
「早く記憶が戻るといいね」
「うん……ありが」
私の台詞は、奇抜な叫び声で掻き消された。
「ふはははははー!」
「なんだ?」
ロイドも私もビックリした。もしや、今の声はリフィルさん……?
「……知らない方がいいよ」
ジーニアス……苦労してんね。

そして聖堂を出た。今まで薄暗い中に居たから目が眩む。視界にキラリと光る何かを見つけた。
「あ」
人差し指にソーサラーリング着けたままだ……。ジーニアスに窃盗だと突っ込まれたので、欲しそうにしていたロイドに渡した。喜んでたよ。最終的にはしぶしぶジーニアスは見逃してくれた。ジーニアスはロイドに甘いなぁ。友情が眩しいよっ。でもいいのかこれで!マーテル教会の聖具なんでしょ?

そして私は彼らの故郷であるイセリアへ、とても高揚した気分で向かった。楽しそうに寄りそう3つの影を見ながら。
色々あったけど、うん。なんとかなる……かな?
なぜこの世界に来たのか、思考を巡らす度に痛む頭は、今は気にしないことにした。


02 神託 end


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