春色の軌跡

□02 我が家への不審
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私は未だに家族を家族だと思えない。兄であるシダレはシダレさんと呼び、姉であるカスミはカスミさんと呼んでいる。心の中で。一歳になったら拙い言葉で喋ればいいかなーって思ってる。まだ早いかな?(ちなみに私の父はミヤマと言い、母はシナミと言うらしい。カスミさん達は母さん父さんとしか呼ばないので、親戚がそう呼んでいるのを耳にするまで時間がかかった。)

別に家族が嫌いな訳じゃないけど、前世のある私にとっては、赤子である自分も家族も、全てがごっこ遊びのように感じる。でもそんなごっこ遊びに疲れて、普通の赤ちゃんを演じることに手を抜いている私を、特に気にも留めない家族は本当に良い人達ばかりだ。“普通の赤ちゃん”と言う私の認識が間違っているのでは、と考えるくらいには。

もしかしたら、前世の記憶を持って生まれると言うのはこの世界では当たり前なのかもしれない。異質な存在である私を普通に扱う異様な家族の中に居ると、まるで私は本当に普通な赤ちゃんであるかのように思えてくる。
可笑しいのは私の存在なのか、家族なのか。間違っているのは私の認識なのか。

何もかも分からないこの世界。とりあえず様子見することにしよう。ぶっちゃけ考えるのが面倒。何も考えたくない。考え事を始めると、必ず前の世界に想いを馳せてしまう。なんて無意味な行為なんだろう。私が向き合わなければならないのは、今の世界だというのに。
まぁ、血生臭そうな世界ではあるが今のところ私の生命の危機は感じないので、ゆっくりと過ごそうと思う。赤ちゃんは眠い。

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