さくひん

□ゆうりさんのお店
2ページ/3ページ



“いつも不機嫌な顔をしていて怖い”

“ほんと、冷めた奴だな”

“あいつの笑った顔なんて見たことない”


幼い頃、まだ流魂街で暮らしていた時代。俺は、周りの連中から嫌になるくらい、同じようなことを言われ続けていた。


別に笑えない訳ではない。
ただ、笑えるような事が無いだけ。

もう放っといてくれ。
お前らには関係ないだろ。


ずっとずっと、そうやって人と距離をとってきた。
人間関係なんて煩わしいだけ。
俺はそんなの求めてない。



イラナインダ、ソンナモノ。



気付いたら俺は独りになっていた。
これで良い、これが良いんだ。
ずっと、そう思っていた。



あの日、雛森 桃に出会うまでは。



雛森はやたらに俺に構った。
冷たい言葉をいくら吐いても、それでもあいつは俺の元へとやってくる。

俺の元へとやってきては、


笑って、

泣いて、

怒って、

悲しんで、

楽しんで、


くるくると変わる表情が不思議だった。
だけど雛森のそれは、どこか心地良くて。あいつが笑う度、モノクロな俺の世界に色が注し込まれていくようだった。




“友達も家族もいらない”

そう呟いた俺に、彼女は酷く悲しんだ。


“そんなこと言わないで”

って、俺の手を握って泣いた。



どうしてお前が泣くんだ?
どうして他人の為に泣ける?


険しい表情でいる俺に、
雛森はしゃくりあげながら言った。



“シロちゃん、とても悲しい顔してる”



その時、初めて知った。


俺は寂しかったんだ。


ずっと強がっていて。
独りで生きていけるって思い込んで。


本当は誰よりも独りを恐れていたんだ。



俺は、初めて人前で泣いた。
泣くことが出来た。
同時に、初めて出会う感情があった。



―雛森に、ずっと傍に居てほしい―



あぁ、そうか。
どうして俺は、
こんなにもお前を護りたいのか。
あの時から始まっていたんだな。



ずっと、ずっと。


お前には笑っていて欲しいから。


俺の世界を色付けたお前の笑顔が、
何よりも大切だから―――。




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ