さくひん
□ゆうりさんのお店
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“いつも不機嫌な顔をしていて怖い”
“ほんと、冷めた奴だな”
“あいつの笑った顔なんて見たことない”
幼い頃、まだ流魂街で暮らしていた時代。俺は、周りの連中から嫌になるくらい、同じようなことを言われ続けていた。
別に笑えない訳ではない。
ただ、笑えるような事が無いだけ。
もう放っといてくれ。
お前らには関係ないだろ。
ずっとずっと、そうやって人と距離をとってきた。
人間関係なんて煩わしいだけ。
俺はそんなの求めてない。
イラナインダ、ソンナモノ。
気付いたら俺は独りになっていた。
これで良い、これが良いんだ。
ずっと、そう思っていた。
あの日、雛森 桃に出会うまでは。
雛森はやたらに俺に構った。
冷たい言葉をいくら吐いても、それでもあいつは俺の元へとやってくる。
俺の元へとやってきては、
笑って、
泣いて、
怒って、
悲しんで、
楽しんで、
くるくると変わる表情が不思議だった。
だけど雛森のそれは、どこか心地良くて。あいつが笑う度、モノクロな俺の世界に色が注し込まれていくようだった。
“友達も家族もいらない”
そう呟いた俺に、彼女は酷く悲しんだ。
“そんなこと言わないで”
って、俺の手を握って泣いた。
どうしてお前が泣くんだ?
どうして他人の為に泣ける?
険しい表情でいる俺に、
雛森はしゃくりあげながら言った。
“シロちゃん、とても悲しい顔してる”
その時、初めて知った。
俺は寂しかったんだ。
ずっと強がっていて。
独りで生きていけるって思い込んで。
本当は誰よりも独りを恐れていたんだ。
俺は、初めて人前で泣いた。
泣くことが出来た。
同時に、初めて出会う感情があった。
―雛森に、ずっと傍に居てほしい―
あぁ、そうか。
どうして俺は、
こんなにもお前を護りたいのか。
あの時から始まっていたんだな。
ずっと、ずっと。
お前には笑っていて欲しいから。
俺の世界を色付けたお前の笑顔が、
何よりも大切だから―――。