□おーい中村くん
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いつものようにカンクロウを誘い、サソリは行きつけの居酒屋の暖簾を潜った。
いつもの席に案内され、馴染みの店員が日本酒と烏龍茶と軽くつまめるものを運び、どうぞごゆっくり、と奥に下がる。

乾杯の後、箸をつけながら、今日はトラブル続きで疲れただの明日は演習が入ってるから面倒だのと愚痴っぽい話の後、カンクロウが、ああそうそう、と何気なく話し出した。


「俺、近々、結婚するかも。」

「は?」


サソリは思わず煮っ転がしを取り落とした。


「アンタも知ってると思うけど、ウチの里って国交繋ぐために、代々里長とか上役が近隣の国々から嫁貰ったり嫁いだりしてんじゃん?んで今さ、結婚適齢期なのが俺ら姉弟しかいねーじゃん?だからそろそろ、って話になってさ…」

「そろそろって…お前はそれでいいのかよ?」

「ウチの親もそれで結婚したし、いいかなって…我愛羅には自由に恋愛さしてやりてぇし、テマリは多分、木ノ葉に嫁ぐだろうし、俺しかいねーじゃん?」

「だからってお前が犠牲になることねぇだろうが。」

「犠牲って、大袈裟な。」

「大袈裟じゃねーよ、お前の一生それでいいのかよ。よく考えろよ。」

「よく考えろっつっても来週見合いだし。」

「ら、来週!?」

「はは、アンタが驚くのって面白れーじゃん、そ、来週の土曜。」

「来週か…何処でやるんだ?」

「秘密じゃん。」

「何でだよ。」

「アンタ絶対来るじゃん。」

「あ、いや…」

「ほらやっぱ来る気満々じゃん?」

「いや別に…」

「嘘吐け。アンタ過保護だもん。」

「過保護なんかじゃねぇよ。」

「過保護じゃん、俺がガキの頃からずーっと世話焼いてるし。ちょっとした怪我でもすぐ治癒してくれるし。」

「医療忍者だから当然だ。」

「あんま危険な任務行かせてくんねーし。行ったとしてもアンタと一緒だし。」

「そりゃお前がまだ未熟だからだ。」

「残業すると夜食くれるし。」

「糖分取った方が効率いいだろ。オレが早く帰りたいだけだ。」

「手が空いてたら俺の分の仕事やってくれるし。」

「それもオレが早く帰りたいだけだ。」

「早く帰りたいとかって言いつつこうして飲んでるし。しかも毎回家まで送ってくれるし。」

「……」

「な?過保護じゃん。オヤジがあんなんだから余計そう感じるのかもしんねーけど。」

「か…過保護じゃねーよ。」

「過保護だよ。オヤジっつーか最早ママだよアンタ。子離れできないママだよアンタ。昔っから俺が恋の相談持ちかけるとその女の子の事キモい位調べあげて50枚位のレポート書いてくるじゃん…んで結論はいっつも『この女はやめるべきだ』だし。姑かよ。どんだけだよアンタ。なんか萎えちゃって恋心消えちゃうし。おかげ様で未だに童貞だよチキショー。」

「それは正直すまん…」

「ま、でもそれももうすぐ卒業だけどな。来週の見合いがうまく行けば、俺も所帯持ちじゃん。写真見たけど可愛い子だったし。悪いなサソリ、アンタより早くに嫁さん貰う事になって。」

「…本気で言ってんのか、お前。」

「へ?本気じゃんよ。」

「本当にいいのか?いきなり嫁が来るんだぞ?どんな性根の奴か分からねぇんだぞ?」

「そりゃ相手だって同じじゃん。つか相手の方が大変じゃん?こんな見ず知らずの土地に政治の道具んなって嫁いでこなきゃなんねーんだし。」

「そりゃそうだが…」

「まぁ、あくまで見合いだからさ、実際話が纏まるかは当日になってみねーと分かんねーじゃん。」

「馬鹿野郎、あんなん纏まらねぇもんも纏まるようになってんだよ、手練れも手練れ、海千山千の世話焼きババア共の手にかかりゃあお前みたいな若造、簡単に丸め込まれちまうぞ。」

「マジ?」

「座ったらそれで終わりだ。あんなもん。」

「……もしかしてアンタもしたことあんの?」

「あるから言ってんだ。オレにも話が来た。」

「でもアンタ独身じゃん。纏まってないじゃん。」

「丁度戦争があってな、相手方の国が消えちまった。」

「うわぁ…ごめんな、嫌な事思い出さしちまって。」

「別に、どうでもいい。オレには昔から…」

「え、何、心に決めた人がいるとか!?」

「…いや…いいだろ、どうだって。」

「よくねぇよ!!…あ、ほら、俺は昔っからアンタに相談したりしてたのに、俺は知らねーって、不公平じゃん?」

「…口が裂けても言えねぇよ。」

「茶化したりしねぇよ?」

「そういう事じゃねぇんだよ。この話は終わりだ。」

「えー…」

「今はオレの事より自分の心配でもしてろよ。」

「ああ…うん…そうだよな…」

「もう来週だろ…それから早けりゃ年内にもお前は所帯持ちだ…カンクロウ…結婚しても、こうしてオレと飲んでくれるか?」

「え?…ああ、たまにはな。流石に今みてぇにはいかないじゃん。」

「そうか…そうだよな…」

「今まで恋愛とかできなかった分、嫁さんの事、精一杯大事にするつもりだからな。恋人時代っつーのを経験しねーまま結婚するんだし。」

「恋愛…か……なぁ…オレと、恋愛してみねぇか?恋愛ごっこ。」

「は?」

「あ…っ、わ、悪い…今のは忘れてくれ、酔っ払っちまったみてぇだ、」

「ご、ごっこじゃなく、本当の恋人、ならいいけど?俺の事、す、好きだって、言ってくれるんなら、結婚すんなって言ってくれるんなら、あ、いや、その…わ…悪ィ……俺も、ちょっと酔ったみてぇじゃん。」

「…お前、飲んでたの、烏龍茶だろ。」

「……」

「……」

「カンクロウ、」

「あー、もうこんな時間じゃん、帰らねーと、また明日も仕事早いし、勘定よろしく、ご馳走さま、今日はお世話になりました、また明日、じゃ!!」

「おい、カンクロウ!待て!」


早々と席を立つカンクロウを追いかけ、テーブルに金を叩きつけたサソリは走り出した。


おそらく、来週の見合いは取り止めになるだろう。



終劇
 

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