あか×すな

□はじめに
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「ついて来い。」


サソリの後をついて、暗く湿気た廊下を歩く。

どうやら此処が奴ら…暁のアジトらしい。
なんとか外部へとこの場所を伝える術は無いかと模索したが、すっかりと身体検査された後なのであろう、我が身には薄手の上下のみ。
基本の忍具すらない。
悲しくなるほどに無力で、何もできない。
傀儡がないと何もできない己が情けない。

ああ、早く我愛羅に会いたい。

会って、共にこの場から逃げ延びたい。


「此処だ。」


サソリが、やけに独創的なデザインのドアの前で立ち止まった。

手をかけて、開こうとした瞬間、中からやけに明るくはしゃいだ声が聞こえた。


「風影ェー♪今日のお昼は何食べたい?オイラが腕によりをかけて作ってやるぜ、うん!」


この声は、我愛羅を攫った張本人、デイダラ、とか云う野郎だ。
あの野郎、我愛羅に何を食わそうとしてやがる、お昼だなんて…アレ?

カンクロウが固まっていると、その声に返事が返った。


「温かい汁物にしてくれ…まだ大した物は食えそうにない…」


我愛羅の声だ。
よかった、生きてた…!!
しかし…何かおかしくねーか?
何であんな親しげに会話してんだ!?

更に聞き耳を立てていると、ぎしっとベッドの軋む音が。


「分かった。まだ寝てろよ、一尾が抜けた後だから、大分辛いだろ…」

「ああ…だが…お前も辛いだろう…オレばかりこうしていてすまない…」

「気にすんなって…オイラ、風影の為なら何だってするぜ…うん…」

「風影などと呼ばないでくれ…それに…もう、風影ではない…」

「そうだな…我愛羅、」

「…ああ…」


カンクロウは頭の中が真っ白になりそうだった。


何で我愛羅と暁があんなに仲良さげにイチャイチャな台詞吐いてるんだ!!!?
しかも、一尾が抜けただと!!!?
一尾が抜けたら死ぬんだぞ!!?

全く訳が分からない。
ドアを開けるのが怖い。


サソリを振り返って、一言やっと絞り出した。


「どういうことだよ…」


青くなっているカンクロウの顔をニヤニヤと見つめるサソリが、ゆっくりと語りだした。


「狂言なんだよ。あの小僧がデイダラの花火遊び如きにやられる訳ねーだろ。」

「え?」

「つまりだな…好きあったものの方や風影、方や暁の大罪人、許されねぇ仲の末の、駆け落ちって訳だ。」

「は…ハァアアアア!!!?」


今度こそ本当に頭が真っ白になった。

我愛羅が、駆け落ち?
あの我愛羅が?
しかも男と?
風影としてやってくって頑張ってたじゃん?
なんで今更、その地位を捨ててまでこんな、得体の知れない輩と?
狂言つったって、砂ではたくさんの仲間がやられて…


「う…嘘だろ…!」

「信じられねぇだろうが…これは風影本人が持ちかけてきた話だ。」

「信じられるか…そんなバカな話…」

「まぁそりゃあそうだろうな。オレも驚いたぜ…砂隠れから風影暗殺の依頼を受けた時はな。」

「風影暗殺!?な、何なんだよ、それ…もう、訳分かんねーよ、」


次から次へと衝撃的な事ばかり。
カンクロウはふらついて倒れそうになった。


「おい、大丈夫か?忍のくせに、ヤワな奴だ…精神訓練は受けてんだろ。」

「だが…もう、何がなんだか…」

「…毒も抜けたばかりだしな。座るか。来い、詳しく話してやる。」


促されるままに先程の部屋へ戻り、ベッドへ腰掛けるとサソリが経緯を教えてくれた。


彼の話を全て信じるならば、我愛羅は自ら進んで此処にいる事になる。


カンクロウは何も知らなかったし、我愛羅も何も言わなかったのだが、風影になった後も、繰り返し里の上層部、我愛羅反対派から暗殺隊を送り込まれ、その度に返り討ちにしていたのだそうだ。

そうするうちに、我愛羅の強さに太刀打ちできる者が里に存在しない事が漸く分かったのだろう、暁へと我愛羅暗殺の依頼を取り付けた。

尾獣集めを行っていた暁にとっては好都合、早速サソリとデイダラへ件の命令が下された。

デイダラはその事を以前より親交を結んでいた我愛羅へと報告し、里抜けを望んだ我愛羅の協力の下に空中戦の茶番を演じ、彼を連れ去ったのだ。

そして我愛羅は尾獣を抜かれて今に至る、らしい。

しかし、何故か尾獣を抜かれたはずの我愛羅は生きている。


「何で小僧が生きてるか、だろ?お前も知ってると思うが…砂隠れで傀儡に生命を与える術の理論が開発されたのは知ってるな?」

「ああ…」

「アレを盗み出した。その理論を応用してな、我愛羅を生き返らせたんだ。」

「え…!?」

「生贄はいるがな。おっと、この事は本人には言うんじゃねェぞ…傷付いちまうかもしれねーからなぁ…」

「なんで…」

「だから言っただろ、デイダラの野郎が風影に懸想してやがんだよ。風影が里を抜けたんじゃ他国へも示しがつかねーし追い忍もかかる。里を守って散るって形が一番穏便な里抜けだろ。」

「…な…何にも知らなかったじゃん…」

「だろうな。」


我愛羅がそんな事になっていたなんて知らなかった。
しかし兄である自分にすら何も話してくれなかった、というのが寂しい。

やっと心を開いてくれて打ち解けたと思っていたのに…


カンクロウはふと悲しくなって涙ぐんだ。


「我愛羅…何で、俺には何にも言ってくれなかったんだよ…酷いじゃん、テマリだって心配してるだろうに…!」

「あ、実はな、風影近辺であの日の計画知らなかったのお前だけだ。」

「は?」

「テマリとかいう小娘にはちゃんと話してあるから、今頃木ノ葉で好きな男とのうのうとしてるだろうし、バキにはオレの部下が報告へ向かった。アイツが次期風影にでもなるんじゃねーかな。」

「へ?ど、どういう事だよ、なんで俺だけ蚊帳の外なんだよ!!?」

「その顔…そういう顔が見たくてなぁ…!!協力する代わりにお前には黙ってるって約束だったんだ…」

「はぁああ!!!?つか何で俺も攫ったんだよ!!?」

「オレがお前の事が好きだからだ。」

「…………は?」

「前から気になってたんだが、オレ暁だろ?なかなか機会がなくてな…今回、この計画が持ち上がった時にオレも便乗させてもらった。」

「え、ワケ分かんね、」

「というわけで、これからよろしくな、カンクロウ。」

「えぇー!!!?」


嘘だろ、もう何がなんだか分からない。



カンクロウは衝撃に次ぐ衝撃で、ベッドに倒れてしまった。





これからどんな生活が始まるんでしょうか。

頑張れ、カンクロウ。



終劇
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