まだ秋の薫りよりも夏の熱の名残が色濃い季節なのに、濡れた頬は冷たいと訴えた。

重い扉を開いて屋上へ出た途端、頬にぽつりと落ちた雨粒が冷たいと思った。俺だって雨が降りだしたこんな時に、わざわざ雨の防げない曇天の真下なんぞに居たくはない。しかも、もう直ぐ午後の授業が始まると腕時計の針が告げていた。次の授業は、確か、古代であった筈だ。背の高い初老の古代教師は、授業の開始時間になっても生徒が席についていないと機嫌が悪い。学級委員を務める自分が遅れるとまずいことは理解している。然し俺には捜し物があった。

捜し物はそこに在った。否、居た、と言うのが正しいのだろうが、彼にはどうにも在った、という表現の方が似合っていた。この場所が造られたその時から此処に在ったかの様に、殺風景な景色に溶け込んで。

光も彩もわからない分、聴覚や勘が優れた彼は俺が来たことに気付いている筈なのに、此方を向こうとはしなかった。
頭の下で腕を組みもせず、脚を組みもせず、帽子も脱ごうとはしなかったらしく、ちょっぴり横っちょにずれた侭。まるでコンクリートの床の上ではなく、雲の上に寝ているかの様に。こいつは重力というものを知らないのだろうか。

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