揚羽蝶

□揚羽蝶1・起点
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まだ夜も明けきらぬ三日月の薄暗闇の中、松明を持った馬軍が草原を走り抜ける。
その動きは規律に縛られた正規の軍とは思えないほどの乱れたものではあったものの、
軍の大将の気風を表しているかのような自由な動きだった。
その先頭、風を正面に受けながら大将である政宗様は馬上で軽く首を揺すった。
それは先日初陣を白星で飾られた政宗様にとっては更なる勝利を手にする前の身震いなのかもしれない。

「どうだ、小十郎、風向きは?」

「は、敵勢850それに対して我が軍は1000、数の上では勝っております。……が、決して油断召されるな。
数はあくまでも数、戦には算術は通用しませぬゆえ……」

「あ〜ん?相変わらず慎重というか何と言うか……」

「ですが、政宗様!!」


政宗様の守り役としての期間が長過ぎたせいか未だに小十郎は政宗様に釘を刺す事を忘れない。
確かに必要なことではあるのだが……

「まあ、まて、小十郎。政宗様もそれくらいはもう承知しておられる。」

「お前は政宗様に甘すぎる、采樹。」

「いやいや、甘いのはお前だ、小十郎。いつまでも政宗様の行く先で転ばぬようにと常に手を引いていては政宗様とていつまでも一人で歩けぬではないか。」

その守り役としての使命感が時に行き過ぎる面が見られる。
政宗様からまだまだやんちゃな面が抜けないと同時に小十郎からも守り役としての面が抜けないらしい。
自分としてはこの二人のそういった面を見るのは決して嫌いではないが、戦とあらばそうも言っていられない。

「政宗様、先ほども小十郎が申し上げました通り、重々承知しているとは思いますが、850に対しての1000、
しかしその半分が意味のない動きをすれば勝てる戦いにも勝てませぬ。
その意味のない動きを作るか否かは政宗様にかかっておりますぞ。
政宗様の采配、小十郎に見せつけておやりなさいませ。」

「OK……おもしれえ、やってやろうじゃねえか。見てろ、小十郎。」

小十郎を見て政宗様は心底楽しそうな笑みを浮かべた。
一方小十郎はそんな政宗様を見て大きなため息をついてこめかみを押さえたかと思うと、今度は睨み付けるような視線をこちらに向けた。

「采樹……政宗様をあんまり煽るんじゃねえ。」

「ははは、悪かった。だが政宗様は考えるよりも本能的に進まれた方が勝ちを掴む可能性の高い方だからな。それに小十郎。」

「なんだ。」

「お前とて政宗様を信じているから溜息程度で済んでいるんだろう?」

「……あたりめえだ。」


そうさ、奥州の若き竜、そしてその若き竜有るところに必ず竜の右目有りなのだ。
まだまだこの二人を見る時間はいくらでもある。
それ故に私はここにいるのだから。



「Are you ready guys!!」

政宗様の言葉に軍の志気が一気に高まるのを感じる。
当然のことながら私の中にもその炎は移る。
常に抑圧されていた自分というものが飛び出しそうになるのを抑えるのが大変なくらいだ。

「派手に楽しめよ!Partyの始まりだ!!」

私の見つけた奥州の竜は空へと舞いあがる……

「行くぜ、小十郎!!」

「承知!!」

そしてもう一人、竜の右目も舞い上がる。

私は幸せだ。
この二人に出会えたことが私の人生で一番の幸せなのだろう。

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