迷子の体

□19扉の向こう
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黒子side




「咲さん!」


だんだん、と扉を叩くが
返事は返って来ない。



「高尾もまだ中なのだよ!」



「鍵は開けた筈なのに何故…!」



ドアノブをガチャガチャ、と回しても
扉はびくともしない。



「しかし、化け物の目的が咲とわかった以上
早く中から出さなければ…っ」



「でも、中に咲っち以外に人がいるなら、しばらくは大丈…。「あなた、鏡の男ね・・・」じゃないっスね…」



放送のステレオから、声が流れ始める。

どうやら、放送室の中での会話が流れているようで
2人は気付いてないようだ。



「これは…」



皆が放送に耳を傾けていたが
違和感に気付き始めていた。



「高尾の声なのだよ…」



中に一緒にいる筈の高尾が
鏡の男と呼ばれ、咲と話している。



「どういうことっスか…?」




「鏡の男が、高尾に乗り移っている…ということか」



どうやら、中の状況は最悪らしい。



「咲さん!!!!!」

どんどん、と何度も叩くが
返事は返ってこない。



放送から流れる会話は何ともおぞましいもので
男から狂気を感じる。


このままでは咲さんが危ない…っ


皆でドアをこじ開けようと
体を体当たりするがまったく動く気配がない


「赤ちん、通路から何か来てるよ…」

紫原くんが通路の角をじ、と見て言う。



自分達が来た側と逆側の方から
早足の足音が聞こえる。




「くそ、この状況で…」



ばたばた、と歩く足音は大きくなり
ついに僕たちの目の前に姿を現した。









ぺたり













ぺたり











そこには下半身がいた。






「そんな……」


皆が唖然とし、ただこちらに歩いてくる下半身に目を奪われていた。



絶望的





そんな言葉は正しく今、使うのだろう。




「どうするっスか!?」



「一旦離れるのだよ!!」

そう叫ぶ緑間くん
それが一番懸命な判断とわかってはいるが


「中にはまだ咲さんがいるんですよ…!!」



「しかし、この状況からして一度離れなければ俺たちは消されて、誰が花空を助けるのだよ!」



こんなに緑間くんが言っていても



それでも



僕の気持ちは変わらなかった。



「僕はここから動きません」



少しずつ、近づいてくる下半身
正直、視界に入れるのもいっぱいいっぱいだが
咲さんを置いていくことは僕に出来ない。
















「よく言ったぜテツ」



「俺も同感だぜ黒子」


頼もしい風が背後から吹いてきた。


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