BOOK_Katze
□04
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04・Donnerstag
木曜日。
朝、宮田が寝惚けながら寝室を出ると、浴室の方から音がした。
「……?」
まだ重い目蓋と、覚醒しきらない頭のままでそちらに向かう。
浴室の中から、水の音がする。
この家には自分一人しかいないはずだ。
(まさか、浴室の窓から泥棒でも入ったんじゃないだろうな……)
ぼんやりと考えながらドアを開けた宮田は、冷めきった湯船に全裸で突っ立つ少女を見て、いろはという居候の存在を思い出していた。
ついでに目が覚め、思考も一気に冴えた。
「……ッ!」
宮田は力の限りに浴室のドアを閉めた。
ドアを閉める激しい音が浴室側に反響し、脱衣所の柱が軋んで音を立てる。
宮田は、閉めたドアに手を突き、額を押さえて長い溜息を吐いた。
「ハァァァ……」
中で、いろはが浴槽から上がる音がした。
ドアに嵌っている磨りガラスの窓の向こうに、いろはの影が映る。
宮田はバスタオルを用意して目につきやすいところに放ると、脱衣所を後にした。
「せめて湯を使え……」
さっぱりした様子でリビングに戻ってきたいろはに、ソファに座っていた宮田は溜め息交じりに言った。
肩にタオルをかけたいろはが、ばつが悪そうに「……にゃー」と鳴く。
「なんで風呂が嫌いだったんだ」
宮田が質問すると、いろははぶるりと身体を震わせた。
「……淳様に何かされたな」
「……にゃー」
小さい声で鳴いてそっぽを向き、頭を拭くいろはの背中を見ながら、宮田はきっと正解なんだろうと確信した。
(淳様はこいつに何をやってたんだ……)
一体何をすれば、ここまで人を恐怖で支配できるというのか。
自分もいろはも、つくづくあの神代淳という男に振り回されている気がする。
怒りや悲しみよりも、呆ればかりが溢れてくる。
頬杖をつきながら鼻で笑うと、バスタオルを被ったままのいろはがこちらを見た。
そんな彼女を見上げ、
「お互い苦労するな」
と苦笑すると、いろはは驚いたように目を丸くした。
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