お姉ちゃんどいて!そいつ殺せない!

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いつもと違う手触り。

いつもと違う首周りの感触。

心なしか、頭の重さも違う気がする。

何度となく自分の髪を触ってしまいながら、私は家の門を潜った。


「ただいまー」

「おかえりー。……あら?いろは、なんか雰囲気が変わった?」


玄関のドアを開けると、丁度母が玄関に飾っていた花瓶を弄っているところだった。

母が私を見るなり驚いたような顔をしたので、私は思わずニヤニヤ笑いながら自分の髪を見せる。


「分かった?美容院行ってきたー」

「まあ……見れるようにはなったんじゃない?というかニヤニヤすんのやめなさい。その顔で台無しだわ」

「ちょっ、娘に向かって何その言い方!子どもの頃から“可愛い可愛い”って言われて育った子は本当に可愛く成長するって知らないの!?」


そうか、今の私がこんなに残念仕様なのはそのせいなんだ。

それに比べて仙蔵は昔から可愛いとか綺麗とか言われてたから、だからあんなにも美しく……!


地団太を踏んだが、母には「はいはい」とスルーされてしまった。

本当にひどい贔屓だ……!


「でもいいもん、美容師さんには“可愛い”って言われたし。似合ってるって言われたし」


リップサービスとか言わない。

まあ自分的にも気に入ったし、それはそれでいっかとか思いながらリビングの方に歩いていくと、そこから出てきた仙蔵に出くわした。


「あ、仙蔵」

「おかえり姉さん、帰ってたんだな……髪を切ったのか?」


仙蔵は私を見下ろして目を丸くしている。

私の母であり女であるお母さんはともかくとして、仙蔵は男のくせに女の子のそういうところにすぐに気付けるのか……。

さすが仙蔵、そういうところもきっとさぞかしモテるだろう。

そんな紳士的な仙蔵なら私を褒めてくれるんじゃないかと思って、私は仙蔵の前で女の子らしくポーズをとってみた。

ぶりっこっぽく首を傾げて仙蔵を見上げて、


「可愛い?」

「!?」


そう言うなり、仙蔵は口元を手で覆って後ずさってしまった。

思いっきり後ずさった仙蔵の背中がゴンッと思いっきり壁にぶつかっている。


「ちょっ……何その反応、オーバーすぎなんだけど……!」

「いっ、いや、すまない……!」


あまりにも気持ち悪くて逃げたってか!

そう思って仙蔵を睨みつけたら……よく見てみると、ちょっと様子がおかしい。

顔が耳まで赤いのだ。

仙蔵は色白だから、顔色の変化はよく分かる。

……これはもしかして。


「……思ったより可愛かった?」

「かかか可愛いなんてものではっ……」

「え?」


口を手で押さえて俯きながらボソッと言うものだから、聞こえなかった。

訊き返す私に、仙蔵はハッとしたように頭を振る。


「い、いや!似合っている!」


仙蔵は震えながらそこに蹲ってしまった。

なんか自分の世界に入り込んでいる。

うーん、本当に変な子だ。


(……まあ、放っとこ)


くるりと背を向けてリビングに入っていった。


仙蔵と私が変わりばんこに風邪を引いた件から数日。

あの時は様子が変だった仙蔵も、少しずつ落ち着いてきて、いつも通りの冷静な仙蔵に戻っていった。

やっぱりあの時はちょっと仙蔵がおかしくなっていただけらしい。

寝てる間にキスされたとかいうのも、私が見た悪い夢だ。

そう思うことにした。

それからちょっとイメチェンでもと思って美容室に行ってきたら、仙蔵がこのザマだ。

よく分からないけど可愛いとは思ってくれたっぽいし、あの仙蔵がそう言うなら太鼓判だろう!

めちゃくちゃ髪の毛放置してたしね!

女子力低すぎとか、そんなね!

今更だし!

夢だと思いたい仙蔵からの寝込みのファーストキスで仙蔵がやたらいい匂いだった時点で、もう姉としても女としてもプライド、捨ててるし!


リビングで適当に飲み物を入れて自分の部屋に戻ると、携帯に着信があった。

見てみれば女友達の名前で、美しすぎる弟のせいで女友達が少ない私はちょっと「おっ」となる。

座りながら通話ボタンを押した。


「もしもし?」

『いろは?今大丈夫?』

「うん、どうしたの?」


そう言えば、部屋に戻る時には仙蔵がもういなくなってたけど、謎の震えはもう治まって部屋に戻ったのだろうか。

仙蔵の部屋の方角を何となく見遣りながら相槌を打つ。


『……でさー、久しぶりに会ったらソイツ全然雰囲気変わっててさ!ホント驚いたよ、ペース巻き込まれっぱなし!それで、合コンやろうって言うの』

「合コン?」

『本人は違うって言ってるけどね、言ってること大体同じ。合コンだよ。女の子の人数が足りないから、適当に友達集めてって言われて』

「へえ……大変だね」


合コンかぁ……すごいなぁ……。


『他人事みたいに言うんじゃないよ!だから私はね、いろはを誘いたくって電話したの!』

「……へぇ?」


思わず変な声が出た。


「え、わ、ワタシ?ゴウコン?ないよ!無理だよ!他の人誘ってよ!」

『誘ったし!もうこれで何人に声かけたか分かんないし!20人ぐらい声かけて10人ぐらいオッケーもらってっていう感じ』

「え、どんだけ規模でかいのその合コン!」


自己紹介に何十分使う気だよ!

男女が向かい合って座れるようなお店が見つからないよ!


『だからね、男女適当に座って自己紹介もテーブルごとで適当。だから合コンじゃないんだって』

「えぇ〜……」


正直、誰が得するのソレ……。

私が行っても知り合いほとんどいないし、多分男の子に至ってはみんな初対面かも知れないっぽいのに、そんなところに行っていきなり交流とか無理……!


……とは、思ったけど。





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