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□煙草とキャンディ
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一応はギャリーをからかう感じでキスを迫ったんだけど……正直、私は普通にギャリーのことが好きだ。
わりと本気でギャリーとキスがしたかった。
ただ、こんな場所ではムードもへったくれもあったものじゃないので、ちょっとこじつけな感じで理由をつけて、無理矢理にでもキスを奪ったりできたらなぁって……。
気付けばギャリーをからかう目的よりもそっちの方に本気になっていたので、実際キスができないというのは、思ったより寂しい。
からかわれただけだと思ってるギャリーには分からないかもしれないけど、私から「うー」なんて残念そうな声が漏れたのはそのせいだ。
うん、イヴが見てるなら仕方ない……イヴに滅多なものは見せられない。
(イヴには清く美しく、純粋に育ってもらわないと……!)
今までイヴと行動してきて、私とギャリーの間には“何があってもイヴを守ろうぜ!”みたいな感じの強い結束が生まれている。
なんかこう、イヴを見守っていたらギャリーもイヴのことを見守っていて、そんなギャリーを見るとギャリーも自然にこっちを向いて、そのときになんか、強い意思を込めた瞳でどちらともなく頷き合うみたいな。
お互いに視線で“イヴはしっかり守ろうね!”みたいな強い決意を確認する、みたいな。
変な話だけど、とにかくそれぐらいイヴは純粋で可愛いのである。
その辺を踏まえると、今イヴが触っているマネキンの首は危険じゃないのかな、大丈夫なのかなぁなんて思って見つめていると、ギャリーがゴホンと咳払いをしながら近付いてきた。
「ねえイロハ……ちょっと」
「どうしたの?」
「ちょっと、こっちに来てもらってもいい?見てもらいたいものがあるって言うか……」
「ん?いいけど……その前にイヴがちょっと心配だから」
先に進むための謎解きの手がかりを見つけたのかも知れないけど、二人でそれを見にいく前に、イヴに一声かけておきたい。
「イヴにここから動かないように言ってくるね。あと、危ないものに触らないように……」
イヴの方に行こうとする私を、ギャリーが肩を掴んで止めた。
「あっ、あのマネキンなら大丈夫よ!気味は悪いけど、その辺にゴロゴロしてて邪魔だってだけだから……」
「そう……?」
近くに女の絵画や石像は見当たらなかったし、大丈夫だよね……と思ったけど、ちらちらとイヴの方を振り返りながらギャリーについていく。
曲がり角を曲がって、さっきいたところからは見えない行き止まりまで来ると、ギャリーが立ち止まった。
ただの行き止まりで、謎を解くための手がかりのようなものは見当たらない。
美術品もなければ薔薇を活ける花瓶もないし、本当に何もない、ただの袋小路だ。
「ギャリー?ここがどうかしたの?」
「ハァー……アタシも馬鹿よねえ」
「?」
何故か、いきなり大袈裟なくらい大きな溜息を吐くギャリー。
一体どうしたんだろうと思っていると、ギャリーが私を見て眉尻を下げた。
「な、何て言うか……あれなのよ?ただアタシも恥ずかしいだけで……ちゃんと気持ちはあるのよ……!」
「え?」
イヴがいる方からは見えない死角。
曲がり角の影に隠れたそこで、ギャリーが照れながら私の頬に手をやり、急に、私の顔に自分の顔を近付けた。
真っ暗になる視界と、唇に触れる、温かくて柔らかい感触。
チュッと聞こえる小さなリップノイズ。
途端に湧きあがる甘い気持ちと、きゅっと胸が締め付けられて苦しくなる呼吸。
(え……?)
私は目を見開いた。
……離れたギャリーの顔がすごく赤い。
私はというと、たった今、自分の唇に触れた感触についての理解が追い付かず、固まったまま混乱していた。
そんな私に、ギャリーは真っ赤な顔で恥ずかしそうに視線を泳がせながら言った。
「その……す、好きよ……」
「……ッ!?」
キス、されたんだ。
そんでもって、“好き”って言われた。
ギャリーに。
ギャリーに。
ギャリーに!
依然として硬直しながら、頭の中では「うわあああ」なんてパニック状態になっている。
私は呆然としながら、なんとか口を動かして言葉を紡いだ。
「えっと……私も……す……好き……」
「え、ええ……」
ギャリーが喫煙者なのかとか、口寂しいのかとか、もうどうでもいい。
そんなことを気にする度に、今の出来事を思い出すことになりそうだ。
ああ、確かにこれは滅多なものだ。
恥ずかしそうにもじもじするオネェ口調の大の男と、完全に思考停止したまま体温を沸騰させる女の私。
……こんなもの、イヴにはとても見せられない。
*了*
アトガキ
夢主のからかいに戸惑いつつ、実は甘えたいだけって気持ちにちゃんと気付いて、イヴが見てないところでチュッとかやっちゃうイケメンオネェさん。
でも実はこっそり見てたりするかもしれないイヴさん……。
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