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□煙草とキャンディ
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イヴとギャリーと私の三人で、おかしな美術館の中を探索していたときのこと。
私は、そう言えばここに来る途中でギャリーがライターを使っていたことを思い出した。
調べていた部屋が真っ暗になったとき、ギャリーが「ライターを持ってるわ」とか言って部屋を照らしてくれたのだ。
今更ながら、そのときのことが気になった。
フロアの中をぶらりと観察して回っているギャリーの近くにいき、後ろから声をかけた。
「ねえ、ギャリーって煙草吸うの?」
「うわっ!びっくりした……急に後ろから声かけないでよ……」
絵画をボーっと見ていたギャリーが、ビクッとしながら振り向いた。
「アタシが煙草を吸うかって?いきなりどうしたの?」
「ほら、ギャリーがライター持ってたでしょ?でも煙草を吸ってるところは一回も見てないし……こんな変なところに来ちゃったら、落ち着くためにも吸いたくなるかなって思ったんだけど」
「ライター?ああ、これね」
コートのポケットから、使い古されたライターを取り出すギャリー。
「でもここ、一応美術館の中でしょ?館内は禁煙だと思うし……というか、そもそも煙草、持ってないのよね」
確かに、ライターだけ持ってて煙草を切らすことはあるだろうし、館内での喫煙もまずいとは思うけど。
でも、肝心なことが分かってない。
「んー……つまり、ギャリーって煙草吸うの?」
「フフ、どっちだと思う?」
ギャリーがにっこりと笑って、楽しそうに首を傾げた。
まるで幼い子どもを相手にしているような態度だ。
真面目に答える気がないな、この人!
「分からないから訊いてるのにー!」
そう言う私に、ギャリーがウフフと悪戯っぽく笑った。
ギャリーの笑顔を見ながら、私はふと思い当たる。
「……ギャリー、キャンディ持ってたよね?イヴにあげたやつ」
「ああ、レモンキャンディね」
「……ギャリーってもしかして……口寂しいの?」
「え?」
ギャリーがパチパチと目を瞬いた。
私はそんなギャリーにぐいぐいと迫る。
「煙草だのキャンディだの、要は口に何か咥えたり入れたりしてないと落ち着かないってこと?」
「な、なによ……煙草吸うとは言ってないじゃない。キャンディがポケットに入ってたのだって、偶然かもしれないし……」
「ギャリー。口寂しいんだよね?」
はっきりしない発言ばっかりして誤魔化すギャリーに、私は強引に繰り返した。
そして提案する。
「……ねえ、キスしよう」
その言葉に、ギャリーが三白眼を思いっきり見開いた。
「えぇっ!?なんでそうなるの!?わけが分からないわ!」
すごく慌ててくれる面白い反応に、思わずニヤニヤしながら近寄っていく。
「いいからいいから、ほれほれギャリー」
「きゃーっ!」
うろたえるギャリーに顔を近付けると、ギャリーはあわあわと逃げながら向こうを指差した。
「イ、イヴが見てる!イヴが見てるわよ!?教育によくないでしょ!やめなさい!」
ギャリーが指差す先では、イヴが展示物のマネキンの首を触りながら、ボーっと不思議そうにこちらを見ている。
「うっ!イヴ……」
確かに、あの幼い9才児に変なものを見せるわけにはいかない。
……残念だ。
「うー……」
「何よ、その変な声」
私はギャリーを追いかけるのを諦め、肩を落とした。
ギャリーが呆れたように息を吐く。
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