BOOK_DUNST
□後
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三郎くんがいなくなって、途端に心配し出すのは勿論、雷蔵くんだ。
放課後になっても戻らない三郎くんを心配して、すっかり参った様子でいる。
私が ろ組の教室へ行くと、雷蔵くんが三郎くんの座席のそばに立ち、彼の荷物が残っているのを見つめながらうんうん唸っていた。
「あーもう……三郎、何処に行っちゃったんだろう……。初等部の庄左ヱ門や彦四郎も、昼休みの終わりに少し会ってからは見てないって言うし……寮にも戻ってないらしいし……生徒会の人達も見てないってなったら……うーん……」
顔を顰めてブツブツと呟きながら頭を抱えている雷蔵くん。
やがて私の存在に気付いたのか、青い顔で私を見て笑った。
「ああ、いろはちゃん……ごめんね、気付かなくて」
「三郎くん、帰ってきてないんだね」
「そうなんだ……。先週のプール裏の動物の死体のこともあって、気を付けるように先生からお話があったばっかりなのに」
深い溜め息をつく雷蔵くんの前で、私は少し考える。
三郎くんが何処に行ったのかについて。
ふと、あの夜の出来事が浮かんだ。
忍び込んだ夜の校舎で、小松田さんから逃げる私を、大鏡の奥の隠し部屋へ引っ張り込んだ三郎くん。
もしかして今日もあそこに行ったんじゃ、と思ったのだ。
「……雷蔵くん」
こちらを向いた雷蔵くんに、周りに聞かれないよう慎重に話しかける。
「もしずっと三郎くんが見つからないようなら……他に心当たりがあるかもしれない」
「え?三郎が何処に行ったか知ってるの!?」
「もしかしたら、だけど……。いるかもっていう場所を知ってるの」
私がそう言えば、雷蔵くんは迷うことなく私の肩を掴んだ。
「ごめん、いろはちゃん。教えてくれないかな……?」
私は小さく頷いて、まだ生徒達がたくさん残っている周りを見た。
「じゃあ、夜になるまで待たないと」
夜になった学園の校舎。
外で雨が降っている様子はないけれど、月は雨雲に隠れていて見えない。
おかげで真っ暗だ。
夜になるまで、中から施錠した教室の中で待っていた私と雷蔵くんは、静かな教室の中でゆっくりと立ち上がった。
「そろそろ、誰もいないと思う……」
「なんだか変な気分だね、夜の学校って……。昼はあんなに人でいっぱいなのに、こんなに暗くて静かだなんて……」
複雑そうな表情で立ち上がる雷蔵くんを見ると、彼は私を見下ろしてから、ハッとしたように顔を逸らした。
「あっ、えっと、それで……三郎がいるかも知れない場所って……?」
雷蔵くんの様子が気になったが、私は気にしないようにしながら教室の出口へ向かう。
ドアの鍵を開けると、雷蔵くんがそれをゆっくりと開けて廊下の様子を窺った。
廊下は真っ暗だけど、歩けないほどではない。
締め切られた他の教室の窓の奥や、廊下の果てが真っ暗で何も見えない。
昼間の明るい廊下を知っているだけに、今のこの静けさがとても不気味だ。
すぐ隣に立っている雷蔵くんの喉から、ごくりと息を飲む音が聞こえた。
「……っ」
「雷蔵くん、大丈夫?」
声をかけると、雷蔵くんはビクリと肩を震わせて、慌てたように頭を振った。
「だっ、大丈夫だよ!そりゃあ、気味が悪いとは思うし、全く怖くないって言ったら嘘だけど……。その上、夜の校舎に無断で残ってるっていうのが、僕、悪いことしてるなぁって……」
項垂れながら顔に手をやった雷蔵くんが、そのままチラリと私の方を見る。
「それに、いろはちゃんが……」
「?」
「うぅ、なんでもない……」
また顔を逸らしてしまった雷蔵くんが、急に奮い立ったように背筋を伸ばして「よし、行こう!」と力強く言った。
……よく分からない。
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