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□ギー太。
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唯はいつもギターと一緒だった。
授業中はさすがに一緒にはいれないが、登下校や部活中はもちろん、家でも常に肩から下げているらしい。
本人いわく、服を着せたり、写真を撮ったり、あげ句は添い寝したりしているとか。
「大事にっていうより、大好きって感じだな」
右手にティーカップ、左手にギター。まさに両手に花状態の唯を見て、澪が呆れて言った。
「ここまで一緒だと、まるで恋人同士みたいね」
紅茶のおかわりを入れながら紬も言う。いくら好きでも相手はギターである。添い寝までする人間は唯くらいだろうが、なんだか愛らしい。
「そんなぁ、恋人だなんてぇ〜照れるねぇギー太?」
「照れるな!!」
「つーか名前まで付けてんのかよ!!」
顔を赤くして頭をかく唯に、律と澪のツッコミが飛ぶ。それでも唯は嬉しそうにギターを抱えて笑っていた。
その無邪気な笑顔を見て、紬がつられて微笑む。律や澪もやれやれと顔を見合わせると、
「…まったく…そんなに好きなら壊すんじゃないぞ?」
「そうだなー唯のことだから、どっかに忘れててきたりしそーだしな」
と、優しく笑った。
唯も二人の言葉に大きく「うん!」と頷いた。
しかし、不意に表情を引き締めたかと思うと、
「壊したり忘れたり、絶対しないよ!だってこれは、みんなで買ったんだもん」
と、三人を真っすぐ見つめて言った。
ただ買ったのではない。ギターを買うためにみんなでバイトをし、お金を貯め、それを使う事はなかったけれど。それでもたくさん、たくさん、みんなの気持ちが詰まった思い入れの強いギターだから。
「大事だし、大好きだし。…うん、なによりね、大切なギターなんだよ」
唯がギターを肌身離さず傍に置く理由。ただ唯がいつも言うように「可愛いから」だとばかり思っていた三人は、そのいじらしい理由に胸を突かれた。
言葉に詰まる三人に気づかず、大事そうに大切そうに唯はギターを抱きしめる。
―――そして、
「だから頑張って練習して、早く上手くなって、みんなに追いつくから!もっとたくさんみんなとバンドしたいもん」
ふだんあまり見せないひどく真面目な表情のあとに、にぱっと崩したその柔らかな笑顔。
その笑顔に、三人が心を奪われてしまっていたことに気づいたのは、まだ少し先のことであるが。
結成して三ヶ月が過ぎ、ようやくバンドらしい活動をはじめた唯達が、「放課後ティータイム」として学校中の注目を集めるまで、そう時間はかからなかった。
「じゃーさっそく練習するか!」
「「「おーーー!」」」
「……あ、ゴメン。こないだのテストでコード全部綺麗さっぱり忘れちゃった(テヘっ☆)」
「なにーーーーーっ!!」
「テヘっ☆じゃねーだろぉぉ!!」
「ふふふっ」
end