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□【碁】SS。
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桜の蕾が膨らみ始めた春先の、とても柔らかな日差しの中
小気味良い石の音が部屋から響く

碁盤を前に座る少年
手元に白と黒の碁石を置き、真剣なまなざしで目下を睨むその表情は
穏やかな陽気の中で一つ静寂である。

微動だにしなかった体が動いたのは、白石を置いてから数分後



「……ありません」



口元をきゅっと噛み締め、少年はペコリと頭を下げた。



「ちくしょー今日はいい感じにいけたのになぁ」



部屋には少年の他には誰もいない。
しかし少年は、まるで目の前に誰かが居るかのように話し掛けながら、今しがた打っていた碁の検討を始める。


柔らかそうな髪の毛をわしゃわしゃと掻いてうなだれたり
かと思えばパッと顔を上げて誇らしそうに胸を張ったり

熱心に、時にうなずいて



「そっかぁ…やっぱ、おまえすげぇなぁー」



尊敬と敬愛の眼差しを向ける先には、やはり人の影もないのだが
しかし、少年の大きく輝く瞳にのみ映る姿があった。




「なぁ、佐為」



 

開け放たれた窓からそよ風が吹き込み、少年の黄金の髪を揺らす

そよ風は少年の前で螺旋を描き
再び空へと吹き抜けた。


風のいたずらに気持ち良く目を細める少年


その瞳の端に、烏帽子をかぶる優しげな美丈夫の影が揺れたかどうか





――ただ、風のみが知る。




fin.


なんてことのないある日の二人を書いてみました。
二人でいる二人が大好物です(ヘンテコ日本語)
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