神喰

□譲れないものA
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 狭い視界に映る、セピア色の映像。
低い視点であることから、子供のそれと分かる。

 大きな手を右手に
 柔らかな手を左手に

 目の前を走るのは、様々な年齢の子供たち。
 大きな穴の開いた天井や、割れたステンドガラスから色とりどりに染まる太陽の光が差し込み、その光の中で、子供たちは輪になり、手と手を繋いで遊んでいる。
 どの顔も笑顔で、絶え間なく笑い声をあげていて。とても楽しげであった。

 そうだ、ここは教会だ。破壊されてはいるけど、自分が住んでいた頃の。
 手を繋いでいるのは両親で、私たち親子は、アラガミから逃れるようにこの街に来たのだ。

 当時はまだこの辺、贖罪の街と呼ばれている地域はアラガミの被害も少ないほうで。フェンリル庇護下にある居住空間であるアナグラや外部居住区に入りきれない人々の多くが、この街でアラガミから身を隠しながら住んでいた。

 偽りの神が支配する世界で、それでも、求める神に身を委ねて祈りを捧げる。なにかにすがっていないと心を保てない。教会にはそんな人々が、アラガミの目を盗んで通っていた。両親も例外ではなかった。

 子供たちはアラガミにより親を亡くした孤児で、教会にたった一人残るシスターが、極東支部の援助を受けながら世話をしていた。

 収容しきれない人々、特に孤児などを守るために、彼女は特別に派遣されていたらしい。それは、彼女の強い希望からだったという。
 シスターはゴッドイーターだった。とても強い女性だった。そして、とても美しい女性だった。


 あぁ、夢だなって思った。夢を見ながら、夢と気づくことがたまにある。
 ……なぜ、今になって、こんな夢を見るのだろう。これは夢というよりも、私の幼い頃の記憶だ。


 けれど、そんな些細な疑問はその声が響いた瞬間に霧散する。




‘カムラ’




 夕暮れに染まる街で、彼女が私を呼んでいた。
 あぁ、シスター。懐かしい貴女の声。貴女の笑顔。
 夢の中であっても、胸がふるえる。ひどく切なくなる。

 すがりつくものが何ひとつなかったあの頃。
 貴女の声だけが私の信じる全てだった。






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