神喰
□譲れないもの@
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忘れられない光景がある。
あの映像が、言葉が、出来事が。
呪いののように私を捕らえ、がんじ絡みに縛り付ける。
けれど私は、あえてそれから解放されようとは思わない。逃れようと、足掻きはしない。
自ら望んで飛び込んで、今やそれは私の夢となり、生きるすべとなり、こうしてこの地に立っている。
その夢のために、私は強く。もっと強くならなければならないのだ。
「落陽に溶ける」
集合場所に到着すると、もうすでにその人は立っていた。時間にはまだ十分の余裕はあったが、先輩よりも後というのはなんだか申し訳なく感じる。
気配を感じたのか、その人は振り向いた。耳元で切りそろえた髪の毛が綺麗になびく。
「この前の新人さんね?私の名前は橘サクヤ。よろしくね」
他の人よりも銃身の長い、遠距離式の神器をかついで。戦うにはあまりにも軽装なその女性は、そう言って手を差し出した。一瞬きょとんとしたのち、あぁ、握手を求められているのかと気づいてあわてて返す。サクヤさんは笑って言った。
「ふふっ、ちょっと緊張してる?肩の力抜かないと、いざというとき体が動かないわよ?」
バン!と、思いのほか強い力で背中に活を入れられた。見た目以上に気さくな性格の人のようで、知らずに緊張していたらしい身体が少しゆるんだ。
先日リンドウさんに「教訓」の話をしていたときに、少しだけ顔を合わせただけだったけど、あのとき感じた印象そのままの人だった。柔らかく、優しい。それだけではなく、みんなを支えてくれるような安心感を持っている。
小さくうなづいて笑うと、サクヤさんは一瞬目を細めて「大丈夫よ」と力強く笑い返した。コウタが見たらきっとポヤーっとしちゃうんだろうな。こんなときにこう思うのもなんだけれど、サクヤさんの笑顔は同性の自分でもそう思うほど、魅力的と感じるものだった。
突然、遠くでアラガミの砲哮が響いた。嘆きの平原全体がビリビリと振動したように感じた。サクヤさんの顔に緊張が走る。
「……さっそくブリーフィングをはじめるわよ」
緊張感を含めた堅い声。先ほどとは違うその雰囲気に、身体が再び緊張し始める。下位ミッションとはいえ、侮ってかかれば簡単に命を落とす場合もあるだろう。弱気になれば、行動や判断が大きく鈍り、危険性がまた高くなる。こんな風にあれこれ考えすぎるのも良くない。考えてもしょうがないことを考えるのは時間の無駄だ。頭を振って目の前の事に集中する。こんなところで怖じ気ついてどうする。私はどんな覚悟でここに来た。
少し伺うような目線を送ってくるサクヤさんに力強く頷き返し、神器のグリップを握り直す。簡単なミッションと聞いているが、一瞬の油断が命に関わることになる。
「頼りにしてるわよ?」
「はい!」
先に飛び出したサクヤさんの背中を追って、私はフィールドに飛び込んだ。
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