神喰
□コウタのメール
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人見知りのしない俺だけど、さすがに今日ばかりは緊張してたんだ。気を紛らわすためにガム咬んでたけど、味なんて実はさっぱり分からなかったんだぜ?あげるとか言って、もうないとか、うけるよなー。
同期ってさ、いわば自分の居場所みたいなもんだろ?どうせなら気の合う奴だったらいいなぁって思ってたんだ。けど、相手は新型の適合者だっていうし、スゲー優秀な奴だったら俺、ついて行けっか不安だったんだよね。
あ、なんか新型イコール優秀ってイメージがあってさ、なにげにビビってたんだよね、俺。
けど、実際会ったら、そんな心配全然必要なかった。あんたスゲーいい人そうだし、気ぃ合いそうなんだもん。趣味とかある?俺、バカラリーめっちゃ好きなんだよね、あんたも好きだったらいいな!
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そこまで書いて、俺はメールを全消去した。なんかスゲーテンション上がってない?いきなりこんなのさすがに誰だって引くよな。ていうか長すぎだし。
携帯を放り投げてベッドに横になる。少し堅いスプリングが、ぎしりと鳴った。
あてがわれた部屋は、これまで住んでいた地下居住区と違い、ずいぶんと小綺麗で、一人で過ごすには落ち着かないほどの十分な広さだった。
「……母さんたち、寂しくしてないかなぁ」
ぽつりと呟いた言葉は、部屋の静寂に溶けて消える。寂しいと思うのは実は自分自身だということも分かってた。
ずっと母親と妹と一緒に暮らしていた。いつか二人を守れるくらい強く、バカラリーの主人公のように強い人間になるのが夢だった。だから適合したと知らせが届いたときは、これで夢が叶うとずいぶんと燃えた。
入隊してこの部屋に来て、急に一人になったことを感じた。ただいま、と言ったって、いつもの返事はない。あぁそうか、俺は二人を守るためにここに来たんだ。
どこか他人事のように感じていたことが、一気に現実のものとして目の前に迫る。俺は戦えるのか、いや、戦わなければならない。俺が、二人を守るんだ。
初めて神機に実際触れたとき、急に怖くなった。正直逃げ出したくもなった。けど、母親と妹の笑顔を思い出すと勇気が出た。大丈夫、俺は戦える。
そして、今日初めて同期と会った。不思議な緑色の目が印象的だった。話に聞いていた「新型の神機使い」は、少し緊張した表情で俺に声を掛けてきた。俺はこいつを一発で気に入った。第一印象は重要だ。こいつとならうまくやっていける、って確信があった。自分のそういう確信には自信がある。
俺と同じ時期に入隊した仲間がいる。仲良くなれる予感もある。それだけで俺は強くなったような気がした。確信が目の前を明るくする。いつか、なんで神機使いになったかとか聞いてみよう。色々な事を語り合おう。もっと仲良くなって、そして、そして……
俺はもう一度メールを打ち込む。さっきよりも短く、簡単に。
「あれ?そういやーあいつ、なんて名前だっけ……あ、そうだそうだ……」
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藤木コウタ
件名:よろしくな!
本文:まぁ、一瞬とはいえ俺のほうが先輩ってことで!なーんて言ったけど、お互い頑張ろうな!
〈END〉
いきなりメール短いなオイ!!