神喰

□新型神機使い
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 「フェンリル極東支部」

 この支部は、世界が崩壊する以前「日本」と呼ばれていた島国に置かれている。むろん、国として機能していた頃の全てはアラガミによって破壊しつくされており、文明の名残が殺伐とその身を地上に晒している。
 わずかに生き残った人々を守るため、ゴッドイーターたちは地下居住区に近づく「アラガミ」を討伐、またその「オラクル細胞」のコアを素材として持ち帰る日々を送っている。持ち帰られたコアは、すぐに「技術開発」へと持ち込まれ、新たな武器や装備、アラガミ討伐の研究に用いられる。

 そんな、最前線で戦い、過酷な任務に命を落とす者が少なくない討伐部隊を指揮・統括する教官は、彼らを指導すると同時に、守ることもできる優秀且つ人望ある人物が望ましい。数少ない「引退」したゴッドイーターである雨宮ツバキは、まさにうってつけの人物だった。

 「鬼のツバキ」と呼ばれるほど彼らに厳しい彼女が、実のところ、誰よりもゴッドイーターたちを大事に思っていることは周囲の承知であった。言葉の端々に彼らを案じる思いが込められているのを、彼らはきちんと受け取っている。また、現役時代から優秀だった彼女の指揮は信頼のあるものであり、周囲からの信頼も限りなく高い。

 そんなツバキの異変に気づいたのは、彼女と同じ血を引く弟であり、第一部隊リーダーである雨宮リンドウであった。

 カツカツと聞き覚えのある足音に気づいて振り向いたリンドウは、姉の表情がいつもと違うことに気づく。

「リンドウか。先のミッションご苦労だったな。怪我はないか?」
「あぁ、かすり傷程度だ」

 そうか、と答えたツバキの声もどこか弾んでいるように聞こえ、リンドウは密かに首を傾げた。とはいえ、その違いは弟だから分かる、ほんの些細なものであるが。
 一緒にエレベーターに乗り込み、エントランスへと移動する。その中でリンドウは姉に訪ねた。

「なぁ、姉上。なんかいいことあったのか?」
「……リンドウ、ここでそのように呼ぶなと何度も言っているだろうが」
「あーいいじゃねぇか。他に誰もいねぇんだし。で、なんでそんなに嬉しそうなんだ?」

 眉間にしわをよせ、他の者であれば思わず口を紡ぐようなツバキのにらみも、飄々とした弟には全く効果がない。
諦めたように小さくため息をつき、ツバキは常に手にしているファイルを軽く上げて見せた。

「今さっき、今度入る新人の二人を見てきたんだ。お前にも前に話しただろ、新人の片方が新型の適合者なんだよ」
「あーはいはい、ついに来たんだねぇ期待の新型。で、どんなだった……って、その表情がそれなわけね」
「……ふっ、そういうことだ。いい目をしていたぞ」

 目元をゆるませ、口元に笑みを浮かべる。あまり見せないツバキの笑顔を前に、リンドウはその新型の新人に興味を覚えた。もちろん新型の神機使いに興味はある。自分たちが使っている、今や旧型と呼ばれる神機が、剣や銃のみであるのに対して、新型は剣と銃とを切り替えて使うことができるということで、アラガミとの戦闘に大いに期待ができる。
 だが、それは「新型の神機」にであって、「神機使い」に興味を持ったのは姉の表情を見てからであった。

 ……いい、目。ねぇ

 人を見る目の厳しいツバキにそう言わせる新人とは、いったいいかなる人物であるか。

「まぁ、姉上も期待をかけすぎないように頼むよ。プレッシャーで新人君が潰れちまったら困るからな」
「ふふふ、案ずるな。お前の人使いの適当さほどではないよ」
「言われちまったなぁ」
「お互い様だろ」

 チーン、と音を立てて、エレベーターがエントランスに到着した。颯爽と先を歩く背中を見ながら、リンドウはその後に続く。
 いつも先を歩く姉。その後を付いていきながら、いつか姉に認められようともがいていた昔の自分を思い出す。ツバキの期待に応えることがどんなにハイレベルなことか。それと同時にどれほど自信につながることか。

 ……幸か不幸か、えらい人に目を付けられたもんだな、新人君。

「リンドウ!ちょっと、あなたまた私のビール勝手に持ってったでしょう!」
「あぁサクヤか、ごちそうさん。どうせ飲まないんだろ?」

 まだ見ぬ新人にいつかの自分を重ねながら、リンドウはつめよる部下を前に、とりあえず頭をかいて誤魔化すことにした。




〈END〉 

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