「いっしょに」



 明日は花組の皆で遊びに行くことになった。
遊びに行く…と言っても、ただ祭りに参加するだけだ。
舞台の稽古や戦いばかりでは身が持たないので、たまには息抜きも必要だ。
夕食時も明日の祭りの話題で持ちきりだった。
皆の笑顔がほころぶ。ただ1人を除いては。

 その1人の様子の変化に誰も気づいていなかった。
…と言うより、それに悟られないよう振舞っていたため、誰も気付けなかった。

 その夜の見回りで、各隊員が明日の祭りを楽しみにしていることが伝わってきた。
その祭りでどれだけお金が飛ぶのだろう…と考えて、大神は苦笑した。
次はレニの部屋だ。

 トントン

 返事がない。
「あれ?もう寝たのかな…?」
念のためもう1度ノックしてみる。

 トントン

 やはり返事がない。
他の所でレニに会っていないから部屋にいることに間違いないのだが、返事がなければどうしようもない。
寝ている可能性もあるので、大神は諦めてそこから立ち去ろうとした。

 ガチャ…

 急に遠慮のあるようなドアの開く音がする。
「隊長…、見回り…?」
開いたドアの傍にレニの姿があった。
少し顔が赤いような気がする。
「あぁ、そうだけど…、大丈夫かい?顔が赤いようだけど。」
「うん…、熱っぽいみたいなんだけど、大丈夫だよ。」
レニはそう言って、か弱く笑ってみせた。
「…そうか、大丈夫ならいいんだけど。今日は早く寝なよ?」
これ以上立ち話していてはレニに悪いと思い、大神はそう言った。
「それじゃ、おやすみ。」
「うん、おやすみ…。」
挨拶を交わし、お互い自室に戻って行った。
「(熱っぽい…か。明日に影響なければいいけど…。)」


 翌日、朝食から外で取ることになっていたので、少し早目に玄関前に集合した。
1名を除いては。
「珍しいわね、レニが遅れるなんて…。」
「起床時間間違えたのかな?」
昨日のレニの微かな変化に気づかなければ、そう思うのもムリはない。
「もしかして、遠足前に風邪ひいたとかそんなオチですか〜?」
そんな織姫の何気ない一言に、大神はハッとした。
「アイリス、ちょっと様子見てくるね。」
「あ、俺も行くよ…!」
まさか症状が悪化したのでは、と思った大神は、アイリスと一緒にレニの部屋へ向かった。

 トントン

「レ〜ニ!起きてる〜?」
アイリスがドアの前でレニを呼ぶ。
反応がない。
「レニ…、入るぞ…?」
一言詫びを入れ、大神とアイリスはレニの部屋に入った。
レニの姿は……ベッドの上だ。
「レニ、大丈夫かい?」
「う…ん、風邪が悪化したみたいだ…。僕としたことが……コホッ。」
レニの顔は火照っている。
「僕のことはいいから、皆は祭りに行って…。」
力なく答えるレニ。
アイリスも心配そうな顔でレニを見つめている。
「…よし、わかった。レニはゆっくり休んでてくれ。」
大神はそう言って部屋にレニを残し、アイリスと共に玄関前に戻った。

 前を歩く大神を、アイリスは訝しげな目で見ていた。
「あ、支配人、レニの様子はどうでしたか?」
心配していたのであろう、マリアが大神たちの姿を見るや尋ねてきた。
その問いに対し、他の面々も気になって大神の方を見る。
「あぁ、どうやら風邪みたいなんだ。」
「風邪!?」
一同が驚く。
レニが風邪をひくなんて、誰が予想できただろう。
そもそも昨日の時点でレニにそんな兆候があったことは誰も気づいていない。
「ねぇお兄ちゃん、皆でレニの看病しよ?」
レニが心配なアイリスは、皆で看病、を提案する。
「いや…、皆は祭りに行ってくれて構わないよ。」
「それじゃ、レニが…!」
「大丈夫、俺がレニを看病するから。」

 皆が出発してから1時間は経っただろうか。
レニは眠っている。
「(皆、今頃楽しんでるのかな…?)」
大神がそう考えた時、レニが目を覚ました。
「ん…?隊長…?」
「気分はどうだい?」
「…どうして?僕のことはいいって言ったのに…。」
レニはそこに大神がいることに驚いた。
「俺がレニを放っておけるわけないだろ?」
「………。」
微笑む大神に、レニは何も言えなかった。
と言うよりむしろ、嬉しくて言葉にならなかった。

 それからまた時間が経ち、昼になった。
再びレニが目を覚ます。
「隊長…、お腹空いた…。」
レニの机で書類整理をしていた大神は、そのレニの言葉で昼になっていることに気づいた。
「もう昼か…。レニは何が食べたい?」
病人なのでとりあえず聞いてみる。
「…何でもいい。」
何でもって何だ。
「……わかった、とりあえず何か作ってくるから。」
そう言ってレニの部屋を出、食堂に向かう大神。
「(病人食…だよなぁ。何がいいんだ?おかゆ?)」
病人食をあまり作った経験がないため、どうすればいいのかわからない。
誰かに聞こうにも、帝劇内には大神とレニ以外に誰もいない。
花組の面々は祭りに出かけた。かえでは出張中。3人娘も花組とは別に祭りに行っている。
薔薇組は不明。
「(えっと…、本に載ってるかな…。)」
食堂に置いてある料理本に手を伸ばす。
これにも載ってない、こっちにも載ってない、と言いながら、時間だけが過ぎていく。
最後に手をとった本に漸くおかゆらしき作り方が載っていた。
早速調理に取りかかる。

 大神は急いでレニの部屋に戻る。
「レニ、ごめん!ちょっと手間取って…。」
「うん、いいよ…。」
遅れすぎていたため怒っているかと思っていたが、そうでもなかった。
ベッドの近くに椅子を引き寄せ、おかゆを盛ってやる。
「いただきます…。」
レニは行儀よく挨拶をし、大神の作ったおかゆを口に運ぶ。
「………。」
無言。
「…不味かったかな…?」
一応は試食してみたが、慣れていないため自信がない。
大神は恐る恐る訊いてみた。
するとレニは首を横に振る。
「隊長の手作りだもの…、美味しいよ…。」
そしてこう続けた。
「僕のために作ってくれて、とても嬉しい…。」
気のせいか、レニの顔が更に紅潮した気がする。
レニが美味しそうに食べている傍ら、大神も同じようにおかゆを食べ始める。
「? 隊長も食べるの…?」
不思議に思ったレニが尋ねる。
「俺も昼はまだだからね。…レニと一緒に食べたかったんだよ。」
照れ笑いをしながらそう答えた。
食事が終わるとレニは再び眠りにつき、大神は机に向かった。

 窓の外が薄暗くなった頃、レニは目を覚ました。
視線を少し横にずらすと、見慣れた背中が見える。
そんなレニの視線を感じたのか、大神が振り返った。
「レニ、起きてたのか。調子はどうだい?」
「うん、大分楽になったよ。隊長のおかげだね、ありがとう。」
食事以外にも、大神は常に冷たいタオルをレニのおでこに置いてくれていたのだ。
「俺にはこんなことしか出来ないからね。」
「………。」
そのまま無言で見つめ合う2人。
その両の瞳だけで何か言葉を交わしているかのように。

「レニーーーー!!」

ドアが開いたかと思うと、急にアイリスが飛び込んできた。
2人の視線はお互いからアイリスの方に向く。
「レニ、風邪大丈夫?」
どうやら花組の面々が祭りから帰ってきたようだ。
レニを覗きこむアイリスの他に、ドアの外に皆がいた。
「もう大丈夫だよ。心配かけてごめん。」
レニの風邪は治ったようだ。
「皆、祭りは楽しかったかい?」
「はい、おかげさまで。楽しませて頂きました。」
「レニ、風邪が治って良かったな!」
「次の祭りは絶対参加やで〜?」
花組が次々に声をかける。
「うん、ありがとう。…隊長も、今日はありがとう。」
そのレニの微笑みは、格別だった。

 レニは念のためもう休むということで、花組と大神はレニの部屋から出ることにした。
「おやすみ、レニ。」
「おやすみなさい。」
ドアを閉じた。


 …コホンっ。

どこかで誰かが咳をしたようだ。




 あとがき
○○さんに捧げます
29000hit 「風邪のレニを看病する大神」

甘々を目指していたつもりなんですが、あんまり甘くないですね…(・・;
それを期待していたのなら申し訳ないです。
私的な理由か、はたまた文才か、ちょっと展開が早いですが。
常に傍にいるとは大神め。

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