SHORT2

□いたかった、いたかった、
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もういっそのこと、頭の中から消えてくれたらいいのに。
どこか遠くへ、記憶の隅へ。
きみの笑顔なんてもう、思い出したくない。
おれを苦しめるものでしかなくて、
おれを深い海の底へ、沈めるものでしかなくて。


『水谷、ねー水谷ー』


どうして記憶の中に出て来るの?
もう、放っておいてくれれば、いい。
でも、
記憶の中のきみは鮮明で、鮮明で。

笑う時にできる笑窪だとか、怒ったときに吊りあがる瞳だとか。
どれも、これも、おれが、見てきたもので。


『水谷は、おれがいなくっても、生きられるよね?』


そう、笑って言うから。
何が何だか分からなくて、でも、でも、


『ん〜まぁ、生きられるよ?』

そう、言ったんだ。

『そうだよね』って、言うきみの、悲しそうな顔にも気付かずに。

きみは何も言わず、この世を去った。


「死ぬ、なんて意味だとは、思わないじゃん…か、…」

あの時、おれが『きみが居なきゃ駄目だよ』って言ってたら
何か変わってたの?

「かわら、ないでしょ…」

強く、つよく。
地面に拳を打ちつける。
と、打ちつけた拳に、涙が落ちて。


「おれ、は……ッ」

きみのことばっか、考えて。
練習にも身が入らないし、勉強なんて、元から得意じゃないのに、もっと無理だし。
最近、怒られてばっかりだよ

「きみの、せいだ…」

「きみのせいだよ…!」


居なくなるのなら、
そうならば、

消える時にきみの記憶丸ごと持っていってくれればよかったのに。
記憶の中のきみに会えたって、触れられないんだよ。
言葉を交わせないんだよ。


「ごめ、……っ、」




いたかった、
いたかった、


(居たかった。痛かった。)

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名前変換なくて申し訳ないです…

0207

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