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□鮮血の笑顔








心が切り裂かれたことは何度もあったけれど、己の身体自体が切り裂かれたことはなかった。
当然だ。もしあったとしたら、生きてはいないだろうから。
だからこの痛み、苦しみは









今回が、最初で最後だ。












敵は他にもたくさんいた。
簡単に言うと、囲まれていたのだ。
だから、何処にいたって安全に詠唱できる状況ではなかった。

なのに、丁度周りに護ってくれる仲間がいないときに、後ろから刃が振り下ろされた。
振り向く時間はあっても、そこからガードに徹する間はなかった。
結局切り裂かれる部分が、背後から正面に変わっただけ。


姉さんはガードすることで手一杯。回復したくても、しに行けない。
他のみんなも似たようなもの。
唯一違うのは、ガードすることで手一杯なのではなく、応戦することで手一杯なのだという点だけ。

そんな無意味な思考だけが、浮かんでは、消えていく―――――









ついに立っていることができなくなって、地面に膝をつく。
肩で大きく、ゆっくり呼吸をしながら、傷口を手で軽く塞いでみる。
そんなことであふれ出る赤は止まらないから、ただただ手から腕を伝っていく温かな鮮血の感触に苦笑する。

こんなときに笑っている自分は、みんなにはどう映ってるんだろ?
口々に何かを叫んでいるのはなんとなく分かるけれど、耳が周囲の音全般を通そうとしてくれない。
最後に聞いたのが、自分の詠唱する声だったとはね。
そんなどうでもいいことばかりが、こんな時に限って真っ白な頭の中をゆっくり通り過ぎる。



己から止まることなく流れ出る赤。
どこにいても、どんなに偽っても、結局いつも己の身を証明する原因になってしまっていた、疎ましい混血。

でも実際に見てみると、普通の人間と変わらない、鮮やかな赤。
違うのは、血の中を廻るマナの流れ。
人間とは違う、独特な流れだけ。
それだけで、生まれた時から差別を受け続けてきたんだと思うと、今更ながらに汚い生き物の多い世界だと思った。






口を開けば、喉の奥から熱い赤の液体が吐き出される。
膝をついている体勢すらも保てなくなって、意識も徐々に薄れていって―――



ドサッっと微かな音を立てて、赤の海の広げられた大地に、身を倒した。
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