TOS小説

□星空を映す水面のように






いつからかはわからないが、明らかに親友としての気持ちではないものが芽生えていたのは知っていた。
知っていて、今までずっと隠し通してきた。
あくまで親友として、ずっとついてきた。
悟られてはいないはず。嘘が上手い方なのは自覚している。
時々不安にはなるけれど、本人が何も言ってこないところをみると、おそらくばれてはいないのだろう。


言えない。
言えるわけがない。
迷惑になるだけなのは目に見えている。
だから今まで、ずっと親友として存在してきたのだ。
親友として存在していること自体が、昔なら考えられなかった。
自分にそう呼べるほどの存在ができるなんて、考えもしなかった。

自分の気持ちを素直に言った途端に、この親友としての関係は崩れるに決まっている。
もちろん、悪い意味で。
親友として以外、自分のことを見てくれはしないことはわかりきったこと。
わかっていて、あえて親友としての関係を壊そうとすることなど、自分にはできなかった。
せっかく手に入れたものを手放す勇気など、ありはしなかった。












そう、ボクもこの水の流れと同じだ。
水面に映った星を掬おうとしても、手に触れるのは冷たい水だけ。
手に掬った水に星を映すことはできても、それはあくまで『映っている』だけの存在。実物ではない。
本当にほしいものは、どんなに頑張っても手に入れられることはないんだ。
自分のものだけにはならない。
だからこそ、純粋に輝けるのかもしれないけど。

でも、実際に星を手に入れられたら、それはそれで大変なことだ。
星は地上から見れば、夜空に煌く綺麗な光にしか見えない。
でも、実際は違う。
宇宙に浮かぶ星屑が、光に照らされて輝いているように見えているだけ。
実際に手に入れることができても、後々問題が増えていくだけだ。
たとえ同じ想いを持っていたとしても、それは許されないこと。
だから、そんな望みは一刻も早く消し去るべきだったんだ。


でも、気づくのが少し遅かったみたい。
ふと周りを見てみれば、そこはもう逃げ場のない想いの中。
消し去ることなど、できないところまで来てしまっていた。
だから、消し去ることができないならせめて、それらの気持ちを全て親友としての想いの裏に隠してしまおうと思った。

親友としてなら、「大好きだ」って言える。
それに別の想いを少しだけのせていることは、もちろん向こうは気づいていない。
それでよかった。
むしろ気づいてもらわないほうがよかった。
気づかれたらそれはそれで面倒だから。


だから、ボクは水の流れであり続けるんだ。
決して掬うことはできないし、手に入れることもできない。
でも、今はそれでもいい。
親友として存在していられることの喜びを、幸せを、崩すようなことはしたくないから。





この喜び以上のものを手に入れる資格が、今のボクにはないから。




















小川の側で膝をついていたジーニアスは、その場にゆっくりと立ち上がった。
そして、仲間が談笑している野営地へと戻っていった。

あの場に戻れば、またいつもの『親友』としての自分に戻る。
そして、そんな自分を『親友』と認識してくれているキミがいる。

そして、周りのみんなも・・・自分のことを仲間だと言ってくれる。
ハーフエルフと知っても尚、拒絶せず、側にいてくれる。
その喜びを、今は大切にしなければ。
だから、今は・・・







・・・今はまだ、このままでいいんだ。
いつか、この想いを伝えるときがきたとしても。
それは、今ではないから。
だから・・・今は『親友』としての笑顔を、キミに向けるよ。
それにきっと、キミも答えてくれるだろうから。






そうでしょう? ロイド・・・


ボクの、一番大切な・・・『友達』・・・




   ― END ―

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