玩ばれる人形
□32,5
1ページ/5ページ
―シオン達が戻って来たのは暫くしてからの事だった。
シオンの腕の中には目を赤く腫らした雪女の姿があり、そんな彼女達の両隣には羅刹と牙狼達が並んでいる。
その姿はまるで…
「親子みてぇだな…」
誰かがそう零したか 分からない。だが、それを聞いていた牙狼は言った本人を鋭く睨む。これには黙るしかない。地獄耳かアイツ…!!
「戻って来たか、シオン」
「途中で抜け出してしまい、すいません…」
「よいよい、別に急いで造っている訳でもない。それに元気が有り余っている奴等が何人もおる。1人抜けただけで作業が遅れる事もあるまい」
「…ありがとうございます」
申し訳なさそうにするシオンに言った、さり気なく気遣いが含まれたマカロフの言葉。それに気付き、シオンはふわりと微かに微笑んだ。
するとマカロフの視線が彼女の腕に抱かれている雪女へと注がれた。
「で、その子供は妖か?」
「っ、」
「…はい」
自分に向けられる視線に怯えるように体を震わせ、シオンの服をぎゅっと握る雪女。安心させる為にとシオンが彼女の背中を叩けば、服を握りしめる手の力が緩む。
そんな雪女を気にする様子もなく、マカロフは大らかに笑みを浮かべる。
「可愛い子じゃのぉ…将来有望じゃ」
「…マスター…;」
「冗談じゃよ、冗談。
―…大切にするんじゃぞ」
「!はい」
しっかりと頷いたシオンに満足そうに頷くと、マカロフは後ろへ振り返り、此処にいる全員に聞こえるよう声を張り上げた。
「今日の分は大体終わった事じゃし、今日はこれで終いにするぞー!!!」
『おおぉ!!』
マカロフの言葉に、全員が喜びの声を上げる。
そして、ガタンやガタガタと片付けの音に混じり、仲間への労わりの声が聞こえてきた。
すると、シオン達へ駆け寄る幾つもの影があった。
「シオンー!!」
「その子ってどんな妖なのー?」
「ふふ…今度の妖はどんな力を持っているのか、楽しみだな」
「そうねぇ」
それはいつもの最強メンバーの皆。
自分へ駆け寄ってくるナツ達に雪女は怯えるようにシオンの肩に顔を埋める。
「どうした?」
「…何だ、人見知りか?」
「…あー…そんな所」
そんな雪女の姿に首を傾げるナツ達に苦笑を零し、シオンは彼女の色素の薄い髪を撫でた。
「シオン、その子と契約したの?」
そう聞いたのは、シオンと同じく契約して使役する魔法を使うルーシィ。
ルーシィの問いにシオンは首を横に振った。
「?まだなの?」
「ん、家でやろうかと」
「此処じゃ後始末がちゃんと出来ないしな」
「後始末?」
何の?と不思議そうにするグレイに「あー…」と言葉を濁すシオン。
するとエルザが良い事を想い付いたとばかりに口を開く。
「良い機会だ、私も契約の仕方について気になっていたんだ。
シオンの家に行き、その妖の契約とやらを見ようではないか」
「え、」
「はぁ?」
「おぉ、いいじゃねぇか!!行こうぜ、シオンん家!」
「あたしも行くー!シオンの家がどんなのか見てみたいし!」
「俺も暇つぶしになるしな」
「お前等なぁ…」
行く気満々なナツ達に牙狼は口元を引き攣らせる。だが、こうなったら彼らは言葉を曲げようとしないと分かっている牙狼は溜息を零す。
「家の中、荒らすなよ」
「んな事しねぇって」
「お前等は信用ならねぇんだよ!!」
「え、それってあたしも?」
「当たり前だ」
「ちょ、ナツ達はともかく何であたしも!?」
がやがやと騒ぐナツ達に羅刹と鬼姫は顔を見合わせた後、片方は溜息を吐き、もう片方は楽しそうに笑った。
「騒がしくなるな…」
「あら、楽しそうでいいじゃない」
「五月蝿いだけだろう…」
対称的な2人にシオンは再び苦笑を零すと、声を掛けた。
「2人共、まだこっちに残るの?」
戻ってもいいんだよ?と言う彼女に2人は首を振る。
「俺は今日はこっちに残る」
「あたしは契約の事が気になるしねー」
「そっか」
2人の言葉にシオンは何処か嬉しそうに小さく笑みを零した。