玩ばれる人形

□28.
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――時間を遡り、妖精の尻尾がファントムへ乗り込んだと同時刻

誰の気配もない暗い森に、くすんだ白銀色がいた。



「っ…!」


体中から走る痛みにギリッと歯を食い縛りながら、周りを警戒するように神経を尖らせる。
周りに誰もいない事を確認すると傷だらけな自分の体を木に凭れさせた。


「……っ、早く、行かねぇとな…」


そう呟くのは、白銀色を持つ“男”

白銀色の髪に、白いチャイナ服を身に付ける男。
その頭に狼の耳がある事から人間ではないのが分かる。


「…っ」


男はは、と息を吐くと足を再び動かそうとした。

―その時、






「っ誰だ!?」


目の前にある木々に鋭く声を投げ掛ける。
そして、いつでも走る事が出来るように身構える。


「――待て、私だ」

「!」


すっと木の陰から現れたのは、謎に包まれた 妖精の尻尾のS級魔導士…ミストガン。


「…お前、か」


霧のように現れた彼に男は思わず安堵の息を零し、身構えていた体の力を抜いた。

ミストガンは男を見て、意外そうに言う。


「…今はその“姿”になっているんだな」

「……リアって奴が、何故か俺達を探してるみたいでな。察知されないように…念の為だ」


すると男にミストガンはそっと手の平を差し出す。
そこには、淡く輝く光が存在していた。


「…それは…」

「彼女の魔力だ。かき集めてきた」

「…悪いな。アイツは今“闇世”にいるから必要はない」

「…そうか」

「……ミストガン」

「何だ?」

「…それ、俺が貰ってもいいか?」

「…お前が?」


男の言葉にミストガンは首を傾げる。
男は微かな苦笑を浮かべ、言った。


「体をボロボロに痛みつけられ、更にそれなりの魔力を奪われてな…」


そう言った直後、男は真剣な表情でミストガンを見据える。


「早く、ギルドに行きたいんだ」

「―…分かった」


その言葉と、自分を強く見据える銀色の瞳にミストガンは頷き、手にある魔力の光を男に差し出した。

“彼女”の魔力を男は受け取り、光は男の体に吸収される。
体が微かな灰色の光に包まれる中、男はふっと笑みを零す。



「…礼を言う、ミストガン」



刹那、一瞬にして男はミストガンの前から姿を消した。


「…お前は仲間だからな。



――――牙狼」


自分から数十m先を走る男に、ミストガンはそう言った。

――彼の右耳にある金色のイヤリングがキラリ、と輝いた気がした。




 
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