玩ばれる人形

□25.
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ミラに案内されたのは妖精の尻尾内の地下1階。
普段は倉庫として使われていたようだが、今は仮酒場となっているようだ。


「見たかよ!!ギルドのあの姿!!ちくしょォ!」

「ファントムめぇ!!よくも俺達のギルドをぉ!!」

「うちとは昔から仲悪ィもんな」

「今度は奴等のギルド潰してやろうぜ!!」

「落ち着けよ!!相手はあのファントムだぞ!」


其処には、いつも明るい笑顔を浮かべる皆は居らず 誰もが険しい顔をしていた。


「よっ、おかえり」

「…ただいま戻りました」


木箱に座って酒を片手にシオン達を迎えたマカロフ。
彼は暢気に酒でも飲んでいたのか顔が赤い。


「じっちゃん!!酒なんか飲んでる場合じゃねぇだろ!!」

「おーそうじゃった。
お前達!!勝手にS級クエストになんか行きおってからにー!!」

「え!?」

「はァ!?」


こんな緊急事態に場違いな事を言ったマスター。


「罰じゃ!!今から罰を与える!!覚悟せい!!!」

「それどころじゃねーだろ!!」


ナツの言葉は気にとめず、マカロフの手が伸びてナツ達に近づく。


「めっ」

ピシッ

「!!」

「めっ」

ピシッ

「痛て」

「めっ」

ピシッ

「あぎゅ」


マカロフは悪戯をした子供を叱るように軽く1人ずつにチョップする。


「めっ」

すぱぁあんっ

「きゃっ」

「…マスター」

「もう、ダメでしょ マスター!」


最後にマカロフはエロ親父の目でルーシィの尻を叩き、それをシオンとミラに注意される。


「マスター!!今がどんな事態か分かっているんですか!!!」

「ギルドが壊されたんだぞ!!!」


エルザとナツがそう訴えてもマカロフは焦る様子を見せない。


「まあまあ、落ち着きなさいよ。騒ぐ程の事でもなかろうに」

「!!」

「何!?」

「…ギルド壊された事が十分騒ぐ事だろう」

「……、」


するとシオンはマカロフや周りの皆を見て、“何か”に耐えるようにぎゅぅっと腕を握った。


「ファントムだぁ?あんなバカタレ共にはこれが限界じゃ。

誰もいないギルドを狙って何が嬉しいのやら」

「誰もいないギルド?」


エルザの疑問にミラが答えた。

どうやらファントムに襲われたのは誰もいない、真夜中だったらしい。
その為、怪我人が出なかったのは不幸中の幸いだ。


「不意打ちしかできんような奴等に目くじら立てる事はねぇ。放っておけ」

「!」


そう言いながらマカロフは腕を伸ばし、シオンの頭を優しく撫でる。
その温かい手にシオンは思わず強張っていた体の力をほっと抜いた。


―ダンッ!!!


だが、ナツは腹の虫が治まらないのか乱暴にマカロフの座っている木箱を叩いた。


「納得いかねぇよ!!!俺はあいつ等を潰さなきゃ気がすまねぇ!!!!」


ナツは怒りを露わに怒鳴るが、マカロフはそれを飄々とかわす。


「この話は終わりじゃ、上が直るまで仕事の受注は此処でやるぞい」

「仕事なんかしてる場合じゃねぇよ!!!」

「ナツゥ!!いい加減にせんかぁ!!!」


聞き分けのないナツにマカロフは腕を伸ばして、すぱぁんっと叩いた。


「何であたしのお尻!?」

「マスター…怒りますよ」


……ルーシィの尻を、



「つーかちょっと待て…漏れそうじゃ;」


木箱から降りたマカロフは此処から離れて行ってしまった。

その後ろ姿を見送るナツは苛立ちのあまり震える体で拳を握りしめた。


「何で平気なんだよ…じっちゃん…」

「…平気な訳、ない」

「シオン…?」

「マスターだって…悔しいに決まってる…」


マカロフはシオン達よりも、周りの人達よりもずっと昔からギルドで過ごしてきた。

想い出が詰まったギルドを壊されて、一番誰よりも悔しかったのは恐らくマカロフだ。



「シオンの言う通りよ、ナツ…

だけど、ギルド間の武力抗争は評議会で禁止されてるの」

「先に手ェ出したのはあっちじゃねーか!!!」

「そういう問題じゃないのよ」


納得がいかないのかがぁぁと吠えるナツ。
だが、渋い顔をしているのは皆同じなのだ。


「マスターのお考えがそうであるなら…」

「……仕方、ないよな…」





 
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